少しは欧米に近づいた夫の家庭内労働
少し古い2017年のデータですが、夫の家事・育児労働がどれほどか、国際比較した資料があります。
これで見ると、家事の時間はまだまだ全く足りませんが、育児であれば、ようやく欧米に手が届きだしたのが見て取れます。これから5年たった直近データで比べれば、育児についてはそこそこ比肩できるレベルになってきているはずです。
夫が家事育児をすることは、夫自身の意識を変えます。それが妻の数分の1だったとしても、大きな変化が起こります。
まず、家事・育児作業の大変さを理解してくれるようになる。それだけで、妻の心の負担が相当軽くなります。
2つ目に、「こんなに大変だ」という意識から、「何とかこの煩わしさを軽減したい」という気持ちが湧き上がります。結果、それまでは妻に強要していた家事育児を、外部業者に委託することも、いとわなくなっていく。
この2つの変化で、妻の心は相当救われるでしょう。
苦労を知った夫たちは、外注を許し始めた
そのことが、端的に示されたデータがあります。
こちらは、出生動向基本調査で、家事・育児の外部サービスを利用すべきか否かを育児家庭に問うたものです。原資料では、さらに細かく「残りの部分は夫婦半々、妻が主、夫が主」と3分類されていたものを、2つに再集計しています。
色々な公的データを長く見てきた身として、この資料は驚くべきものだ、と思いました。母数がしっかりした調査で、たった4年という短い期間に、これほどまでに数字が変化した統計を私は見たことがないからです。中でも、育児に関しては2018年に外部サービス利用への賛成が33.5%とマイナーだったものが、2022年には74.1%と圧倒的多数になっています。実際にベビーシッターなどの利用者はほんの数%にしかなっていないので、これは、「心」の変化に留まり、行動には移ってはいないのですが。
にしても、なぜここまで急に大変化が起きたのか。私はこの間に進んだ女性活躍の波が、それだけ大きかったのだと思っています。会社や社会の要請で、形だけでも育児や家事に携わった世の夫たちは、そのあまりの過酷さに気づき、この作業と会社勤務を並立させることは困難と、頭を切り替えたのでは……とみています。
世の夫にとっての育児・家事参加は、まだほんの一歩でしかありませんが、実に大きな一歩だったと思えます。
1964年生まれ。大手メーカーを経て、リクルート人材センター(現リクルートエージェント)入社。広告制作、新規事業企画、人事制度設計などに携わった後、リクルートワークス研究所へ出向、「Works」編集長に。専門は、人材マネジメント、経営マネジメント論など。2008年に、HRコンサルティング会社、ニッチモを立ち上げ、 代表取締役に就任。リクルートエージェント社フェローとして、同社発行の人事・経営誌「HRmics」の編集長を務める。週刊「モーニング」(講談社)に連載され、ドラマ化もされた(テレビ朝日系)漫画、『エンゼルバンク』の“カリスマ転職代理人、海老沢康生”のモデル。ヒューマネージ顧問。著書に『雇用の常識「本当に見えるウソ」』、『面接の10分前、1日前、1週間前にやるべきこと』(ともにプレジデント社)、『学歴の耐えられない軽さ』『課長になったらクビにはならない』(ともに朝日新聞出版)、『「若者はかわいそう」論のウソ』(扶桑社新書)などがある。