「真犯人は従業員とは無関係である外部の人間では」

14年に釈放された際には、都内のホテルで弟と枕を並べて寝た。

そのときは「寝息を立てて眠る巌を見て、安心した」と話してくれた。

今回の検察の決定は、袴田さんには言っていない。身体は丈夫で散歩やドライブに出かけるが、長年拘留されたことによる拘禁症で、袴田さんはまだ妄想の世界にいる。

それでも秀子さんは、電話口で元気な声を聞かせてくれた。

「どうってことないわよ。やるっきゃないから」

さらに弁護団は「この事件の犯人は従業員とは無関係の複数の外部犯人」と想定し、警察が事実を捻じ曲げたと当時の捜査を非難している。

「最初から捜査が歪められてきたことを主張していきたい。迅速に裁判を始めてほしいと思っている」(小川弁護士)

衣類の「みそ漬け実験」で変色を調べたのも、証拠の衣類が袴田さんには小さくて入らないことも、支援者とともにやってきた。

高齢の姉弟のためにも、再審を弁護団と支援者が一緒になって闘い、早く無実を勝ち取ってほしい。それが大多数の人の願いになっているのではないか。

樋田 敦子(ひだ・あつこ)
ルポライター

明治大学法学部卒業後、新聞記者に。10年の記者生活を経てフリーランスに。女性や子どもたちの問題を中心に取材活動を行う。著書に『コロナと女性の貧困2020-2022~サバイブする彼女たちの声を聞いた』『女性と子どもの貧困』『東大を出たあの子は幸せになったのか』(すべ大和書房)がある。NPO法人「CAPセンターJAPAN」理事。