東京高裁は「捜査機関による捏造の疑いがある」としたが…

その後、検察は最高裁に特別抗告せず、地裁での再審開始になった。

今年4月からは3者協議を進めていて、検察は立証方針の決定に3カ月かかるとし、10日がその期限だった。検察がどのように有罪立証を行うかが焦点になっており、それを明らかにしたわけだ。

今回検察の意見書には、「5点の衣類は、袴田さんが犯行当時着ていたもので事件後にタンクに隠した」「5点の衣類が1年以上みそ漬けにされていた衣類の血痕に赤みが残ることは何ら不自然者ではない。捏造の主張に根拠はない」「犯人はみそ工場の関係者。犯人の行動を袴田さんがとることは可能」などといった主張が並ぶ。さらに「シャツの穴が袴田さんの傷の位置と一致するのは、犯行の際、負傷したから」「衣類が発見されたみそタンクにはもっぱら袴田さんが入って作業しており、他の従業員は気づかなかった」と主張している。

「検察の有罪立証には犯行の決定的な根拠がない」

「率直に言って、これで有罪立証をしてくるとは全然予想していなかった」と、小川弁護士は言う。

1966年に静岡県で一家4人が殺害された「袴田事件」の再審公判に向けた3者協議を終え、記者会見する弁護団の小川秀世事務局長=2023年7月19日、静岡市葵区
写真=時事通信フォト
1966年に静岡県で一家4人が殺害された「袴田事件」の再審公判に向けた3者協議を終え、記者会見する弁護団の小川秀世事務局長=2023年7月19日、静岡市葵区

立証方針が示された直後の会見で小川弁護士は、「こんなにくだらないことで時間を費やすのはやめろ」と憤った。こんなくだらないこととは、有罪立証の根拠が確定判決で言われたことの域を出なかったからだ。

「検察の方針については意見書を読みましたが、なんら新しいことはないのです。新証拠は、検察の実験では赤みが残る場合がある、というだけの主張です。検察がやらなければいけないのは、これが犯行時に着ていた犯行着衣であるとの立証で、赤みが残るというのは、それが犯行着衣だと裏付ける証拠には全くならないのです。それをもう一回蒸し返すのは、再審の趣旨に反します」

さらに小川弁護士は、裁判所や弁護人に「捏造などありえない」という思い込みがあったと考えている。

「シャツの穴が袴田さんの傷の位置が一致した。それは犯行の際に負傷したからだとか、衣類が発見されたタンクにみそを仕込むときには、踏み手として袴田さんが入っていたとか、いろいろ言ってきていますが、いずれもあいまいな証拠で、論理的ではないのです」