役職定年以降の社員は正当に人事評価してくれないという不満

シニアに期待しなくなるというエイジズムとは、具体的にはどのようなものか。この点については、当研究室のゼミ修了生の水元孝枝さんの修士論文が詳しい。この研究では50歳以上のシニア社員15名にインタビューをしている。

シニア社員が特に問題だと指摘しているのは人事評価の問題である。45歳以降、あるいは役職定年の55歳以降は、組織側はシニア社員に対して、正当に人事評価してくれないという不満が多い。人事評価の実質的な対象範囲は若手社員だけだというのだ。45歳から定年再雇用の終了時期である65歳まで20年もあるのに、その間は評価せずに放置されるのはおかしいという不満も見受けられた。

腕を組んで、笑顔を見せる二人のシニア男性
写真=iStock.com/stockstudioX
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組織側から人事評価を正当にしてもらえないという不満は、組織からの自分への期待の低さを実感することにつながる。そして、組織での自己の存在意義が感じられなくなるという。これこそ、まさにシニアの低い成果の自己成就へとつながる状況であろう。

企業や組織がシニアを評価しない2つの理由

組織はなぜシニアに対する人事評価に真剣に取り組まないのか。その理由は2点あると筆者は考える。第1に、組織が人事評価の目的を、昇進(それに付随する上昇傾向の賃金)の決定にあると考えていること。組織としては、若手・中堅社員が昇進し賃金が上昇していく中で、それを公正に判断することには関心が高いだろう。しかしシニアになり賃金の上昇が止まり、役職定年と定年再雇用においては年齢で一律に賃金が減額されるという状況では、人事評価をする必要がないと考えてしまうかもしれない。

石山恒貴『定年前と定年後の働き方 サードエイジを生きる思考』(光文社新書)
石山恒貴『定年前と定年後の働き方 サードエイジを生きる思考』(光文社新書)

第2に、組織がシニアには技能継承を期待するが、第一線の仕事は期待していないこと。組織としては、技能継承のような間接的な貢献は、短期間で組織の業績に結びつくわけではないし、明確な判断を行いにくいので、人事評価をすることに前向きでなくなってしまう。

しかしこうした組織の姿勢は、従来の福祉的雇用を前提とした固定観念に囚われたものといえる。また、それは組織側のシニアへのエイジズムでもあろう。シニアに第一線の仕事を担ってもらい活躍を期待するのであれば、昇進し賃金が上昇していく状況でなくとも、その都度の仕事ぶりを適切に人事評価することが必要だろう。組織が正当に人事評価してくれているとシニアが受け止めれば、それは組織が自分に期待しているという受け止めにつながるだろう。

石山 恒貴(いしやま・のぶたか)
法政大学大学院教授

一橋大学社会学部卒業。産業能率大学大学院経営情報学研究科修士課程修了、法政大学大学院政策創造研究科博士後期課程修了。博士(政策学)。NEC、GE、米系ライフサイエンス会社を経て、現職。主な受賞として、経営行動科学学会優秀研究賞(JAASアワード)、人材育成学会論文賞、HRアワード(書籍部門)入賞など。著書に、『日本企業のタレントマネジメント』(中央経済社)、『時間と場所を選ばないパラレルキャリアを始めよう!』(ダイヤモンド社)、『越境学習入門』(共著、日本能率協会マネジメントセンター)などがある。