どちらが婚姻費用を負担するか

親は離婚後も、引き続き子どもに対して、養育するために必要な費用を負担する義務が課せられています。また、夫婦には相互扶助の義務があります。したがって、離婚をする以前には、たとえ夫婦が別居していようとも、互いに生活を支える義務があります。夫と妻の収入に応じて、多いほうが少ないほうの生活を支える必要があります。たとえ離婚を望んでいても、夫婦は法律的に結婚が継続している限り――法律的に言えば婚姻関係にある限り――離婚が成立するかまたは他方が死亡して結婚が終了するまでは、多額の収入を得ているほうが少ないほうに毎月一定の金額を渡す必要があります。

妻は、家庭裁判所に婚姻費用分担の申立をしています。このケースでも、妻は、夫が調停の申立をする以前に自分たちで話し合ったときには、婚姻費用として、18万円を払うことを約束したと主張しました。これに対して、夫は10万円を主張しました。夫が家を出て、妻は引き続き家に居住し続けており、住居費がかからないことなどについても考慮し、最終的に12万円の婚姻費用で合意しました。今回のケースでは合意で終了しましたが、もし合意できなかった場合、「婚姻費用」や「養育費」は家事審判に回され、家庭裁判所の裁判官が決定します。

この夫婦は今後どうなるでしょうか。協議離婚できず、調停離婚もできませんでした。残された方法としては裁判離婚です。従来は地方裁判所で扱っていましたが、現在は家庭裁判所で扱っています。これは「人事訴訟」、略語で「人訴」と呼ばれています。この人事訴訟を起こすためには、家事調停を行っていることが必要条件となります。この後、夫は離婚訴訟へ向かうものと思われます。夫は、家事調停の申立を行った時点で、自分のケースは調停ではまとまらず、裁判を行うほかないと考えていたのではないかと推測されます。

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裁判で離婚するための条件

日本において裁判で離婚するには、次の5つのうちの一つに該当すると裁判所が認定することが必要です。

民法
第七七〇条
1 夫婦の一方は、次に掲げる場合に限り、離婚の訴えを提起することができる。
一 配偶者に不貞な行為があったとき。
二 配偶者から悪意で遺棄されたとき。
三 配偶者の生死が三年以上明らかでないとき。
四 配偶者が強度の精神病にかかり、回復の見込みがないとき。
五 その他婚姻を継続し難い重大な事由があるとき。

しかし、第二項では次のように述べられています。

2 裁判所は、前項第一号から第四号までに掲げる事由がある場合であっても、一切の事情を考慮して婚姻の継続を相当と認めるときは、離婚の請求を棄却することができる。