自尊感情が高い人ほど、カスハラ加害の経験あり

これまでの先行研究や調査をまとめよう。カスハラ加害をおこないやすい消費者の傾向は、図表1のようになる。

桐生正幸『カスハラの犯罪心理学』(インターナショナル新書)
桐生正幸『カスハラの犯罪心理学』(インターナショナル新書)

まず、苦情に関する先行研究でも、自尊感情が高い人ほど、苦情に対して肯定的態度をとることが明らかにされている。自分の情動を自分で調整できると思っている人についても同じだ。

自尊感情は、心理学では「自尊心」とも呼ばれる。簡単に言えば、自己肯定感のことで、長年にわたって研究がされてきた。ここでは、他者に対して攻撃や危害を加えるネガティブな側面が出ているが、自尊感情そのものは人間にとって大事なものでもある。

1965年に自尊感情研究の第一人者のモーリス・ローゼンバーグは、この自尊心を科学的に測る方法を開発した。自尊心の程度を数値として測定できる「ローゼンバーグ自尊感情尺度」と呼ばれる尺度は、いまも世界中で広く用いられている。

たとえば「自己肯定感が低くて生きづらい」という悩みも、この尺度によって実証的に証明されている。自尊心が高い方が自己評価も高く、不安も少なく健康的に過ごせて、他人ともうまく付き合える。

この自尊心を測定できる尺度を使って、カスハラ経験のある人とない人のアンケートに対する答えを比較した。すると、カスハラ加害の経験がある人は、ない人に比べて「私は自分には見どころがあると思う」と思っている傾向が高かった。「私には得意に思うことがない」とは思っていない傾向も見られた。

カスハラ加害者は「おたがい様」と考えることができない

またカスハラ加害経験のある回答者の性別についても、自尊心による違いは見られた。男性の方が女性よりも「私は自分には見どころがあると思う」と思っており、「私には得意に思うことがない」とは思っていない傾向が高かったのである。

このように、カスハラ加害の経験がある人の方が自尊感情が高い傾向があるという結果が出た。この結果に納得する読者も多いはずだ。自分に自信がなく「自分なんか大したことない」と自己肯定感が低かったり、あるいは謙虚だったりする人が「自分は間違ってない! お前が悪いんだ!」と大騒ぎするとは考えにくい。

自尊心があることが悪いわけではないが、やはりカスハラの加害者には「おたがい様」という意識が欠落した「俺様」タイプが多いのだろう。

※参考資料
・池内裕美 2010「苦情行動の心理的メカニズム」『社会心理学研究』25(3), 188-198.
・桐生正幸 2021「日本における悪質クレームの分析」『東洋大学社会学部紀要』58(2), 111-117.
・桐生正幸 2016「犯罪心理学による悪質クレーマーの探索的研究」『東洋大学21世紀ヒューマン・インタラクション・リサーチ・センター研究年報』13, 45-50.
・Kiriu, Masayuki and Iriyama, S. & Ikema, A. (2016) A study of Japanese consumer complaint behavior :Examining the negative experiences of service employees, international journal of psychology, (51)301.

桐生 正幸(きりう・まさゆき)
東洋大学社会学部社会心理学科教授

山形県生まれ。東洋大学社会学部長、社会心理学科教授。日本犯罪心理学会常任理事。日本心理学会代議員。文教大学人間科学部人間科学科心理学専修。博士(学術)。山形県警察の科学捜査研究所で主任研究官として犯罪者プロファイリングに携わる。その後、関西国際大学教授、同大防犯・防災研究所長を経て、現職。著書に『悪いヤツらは何を考えているのか ゼロからわかる犯罪心理学入門』(SBビジュアル新書)など。