指定品ではないのに「指定品扱い」のランドセル

中学校の「隠れ教育費」の典型が制服類だとすると、小学校の「隠れ教育費」の典型はランドセルだ。

しかも、ランドセルの場合、中学校の制服類とは異なり、購入・持参が校則などで定められていないことが多い。すなわち、指定品ではなく、ただ「指定品扱い」をされているだけにもかかわらず、それがかなり強い同調圧力を保ち、しかも高額化しているという問題がある。ランドセルの価格帯で一番人気は、6万5000円以上だ(ランドセル工業会「ランドセル購入に関する調査 2023年」)。

この問題がどうもこじれるのは、ランドセルを実際に購入する人が保護者である場合は4割に過ぎず、祖父母が購入する場合が5.5割と多数派であることである。

入学のためのお祝い事であることから「少しくらい高くても」と思う人は多いし、実際に費用負担をしていない人にとってみれば腹が痛まないので、費用負担をしている親の負担感に共感しにくく、価格の上昇について自分事のように考えにくい。ランドセルのサブスクサービスや格安ランドセルの登場が報道されることはあっても、「うちは本人がいいと思うものを買ってあげたい」と思う親心もある。

「ランドセル症候群」に悩む子どもたち

また、実際にランドセルを使っていくと「ランドセルが重い」と感じる子どもたちの存在も指摘され始めた。大学教員・医者の共同研究により「ランドセル症候群」に悩む少なくない子どもたちに注目が集まったのである。

実際には、ランドセルそのものは軽量化の努力がなされてきているが、問題はランドセルの中身だ。置き勉が不可能な学校では、大きなランドセルの中にたくさんの教材や水筒、指定品を詰め込んで子どもたちは登下校をせざるを得ない。その重さは、子ども自身の体重の2~3割に上ることすらある。

登下校が憂鬱ゆううつで子ども自身は「もうランドセルはいやだ」と思っても、「せっかくのお祝い品だし、学校では『ランドセルで登校』と言われているし」ということで、そう簡単に親の方から「他のかばんで登校してもよい」とは言いにくい。

小学校側からも発信を

ランドセルをめぐるさまざまなジレンマを見てきたが、原点に立ち返ると、多くの学校ではランドセルは指定品ではなく「指定品扱い」になっているだけだ。ランドセルでなくてもよく、子どもの健康・成長発達を促進し、子ども自身が使いたいと思うかばんであれば、何も高価なものをわざわざ買う必要はない。

今や「ラン活」は小学校入学の1年前に始まると言われており、かなり早くから準備を迫られる。その時に、ランドセルの他の選択肢としてリュックサックやナップザックを念頭に置いておきたいところだ。

小学校側からも、この点を早い段階からホームページなどで発信してほしいと思う。「この小学校ではみんな、好きなカバンで登校します」「好きな色のリュックを使っている子どももこれだけいます」ということが分かれば、子どもも保護者も安心してランドセル以外の選択肢も検討できるだろう。

「ランドセルありき」をやめることで、小学校の隠れ教育費は大きく減少するはずだ。

福嶋 尚子(ふくしま・しょうこ)
千葉工業大学准教授、教育行政学者、「隠れ教育費」研究室 チーフアナリスト

新潟大学大学院教育学研究科修士課程を経て、2011年、東京大学大学院教育学研究科博士課程に進学。2015年より千葉工業大学の教職課程に助教として勤務し、教育行政学を担当(現在は准教授)。2016年12月博士号(教育学)取得。「子どもを排除しない学校」「学校の自治」「公教育の無償性」の実現、「教職員の専門職性」の確立を目指し、教材教具整備・財務に関わる学校基準政策、学校評価・開かれた学校づくり・チーム学校等の学校経営改革について、現代的視点と歴史的視点の両面から研究している。著書に『占領期日本における学校評価政策に関する研究』、共著に『公教育の無償性を実現する 教育財政法の再構築』、『隠れ教育費 公立小中学校でかかるお金を徹底検証』など。