所得格差は幸福度格差につながるのか

「お金持ちほど幸せになれる」ということは、社会全体の所得格差が大きい場合、幸福度の格差も大きくなる可能性があることを意味します。

新聞の見出し「格差」
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私たちが生きる資本主義経済の中では、競争を前提としており、所得格差が生じるのは避けて通れません。ただ、所得と幸福度が連動している場合、大きな所得格差の存在は、幸福度の差につながる恐れがあります。

もちろん、「それが資本主義経済の結果だ」と言われればそれまでなのですが、やはり行き過ぎた格差が存在する場合、何らかの対処が必要でしょう。この点において政府の所得再分配政策は重要であり、格差への適切な対処が求められます。

ちなみに、所得格差の現状を労働政策研究・研修機構の「データブック国際労働比較2023」から見ると、アメリカでは2000年以降、所得格差が拡大し続けています。アメリカは日本以上の所得格差社会であり、これに連動して幸福度に格差が生じている可能性があります。

これに対して日本の所得格差を厚生労働省の「所得再分配調査」から見ていくと、再分配後の年間所得では、2011年から2017年にかけて、所得格差が緩やかに低下しています。日本では一時期所得格差の拡大に大きな注目が集まりましたが、その傾向はやや薄れつつあると言えるでしょう。

このような所得格差の縮小は喜ばしいことですが、コロナ禍以降の状況がまだわかっておらず、引き続き注視していく必要があります。

(*1)Kahneman D, Deaton A. High income improves evaluation of life but not emotional well-being. Proc Natl Acad Sci U S A. 2010 Sep 7;107(38):16489-16493.
(*2)Killingsworth MA, Kahneman D, Mellers B. Income and emotional well-being: A conflict resolved. Proc Natl Acad Sci U S A. 2023 Mar 1;120(10):e2208661120.
(*3)Binder M, Coad A. From Average Joe's happiness to Miserable Jane and Cheerful John: using quantile regressions to analyze the full subjective well-being distribution. Journal of Economic Behavior & Organization, 2011; 79(3):275-290.
(*4)Binder M, Coad A. Heterogeneity in the Relationship Between Unemployment and Subjective Wellbeing: A Quantile Approach. Economica, 2015; 82(328):865-891.

佐藤 一磨(さとう・かずま)
拓殖大学政経学部教授

1982年生まれ。慶応義塾大学商学部、同大学院商学研究科博士課程単位取得退学。博士(商学)。専門は労働経済学・家族の経済学。近年の主な研究成果として、(1)Relationship between marital status and body mass index in Japan. Rev Econ Household (2020). (2)Unhappy and Happy Obesity: A Comparative Study on the United States and China. J Happiness Stud 22, 1259–1285 (2021)、(3)Does marriage improve subjective health in Japan?. JER 71, 247–286 (2020)がある。