会長未決のまま新年度に突入する前代未聞の事態

でもその男性も、会長であることは、まんざらでもないのです。自分がおりる気はまったくなく、前会長やそのまた前の会長らとタッグを組んで、対立候補の母親を排除しようとしたのでした。ちなみに、前会長や前々会長の子どもはとっくに卒業しているのですが、このPTAでは「歴代の会長が口を出すことは当たり前」なのです。

こうなるともう、選挙で会長を決めるほかなさそうですが、これも簡単ではありません。PTAや管理職の先生の間では、よく「保護者の間にあとあと禍根を残すから、選挙はやらないほうがいいのだ」という“言い伝え”のようなものがあり、選挙が忌避されてきたからです。そのため、現在も多くのPTAには役員選挙のノウハウがありません。

校長や副校長も、会長選びに関しての発言権はほぼゼロです。地元の人間ではないので、光世さんと同様に「外様」の扱いなのです。

そうこうしている間に新年度がスタートしたため、先日行われたPTA総会では「会長は未決です」という前代未聞の状況に陥ったのでした。

パソコンを前にスマホを持って座っている女性
写真=iStock.com/kokouu
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東京も必ずしも進んだPTAばかりではない

「会長が決まった」と光世さんから筆者が連絡をもらったのは、ほんの数日前のことです。結局、昨年度まで会長だった地元民の男性が「家庭の事情」(本人弁)によりやむなく役をおりることになり、立候補したワーママが無事、会長に内定したのだそう。

ワーママ会長は、既にデキる母親・父親らに声をかけて本部役員の布陣を敷いており、もちろん光世さんもその一人だということです。

役員はもうやらないつもりだったそうですが、「今年度は面白いことができそうだから、誘いに乗ってみた」という光世さん。まずは、会議のペーパーレスなどから進めていく予定です。

「東京のPTAでも、そんなところがあるの⁉」と驚いた方も多いかもしれませんが、そう、実は意外とあるのです。都会ならみんなPTA改革が進んでいるかというと、そうとも限らず、白黒写真から抜け出したようなPTAもまだ決して珍しくありません。

ただし、光世さんのPTAはこれから急ピッチで変わっていくかもしれません。東京だろうと地方だろうと、役員の足並みがそろって、且つ管理職の先生の賛同が得られさえすれば、PTAはがらりと変わるものです。

大塚 玲子(おおつか・れいこ)
ノンフィクションライター、編集者

1971 年生まれ。東京女子大学文理学部社会学科卒業。PTAなどの保護者組織や、多様な形の家族について取材、執筆。著書は『ルポ 定形外家族』(SB新書)、『PTAをけっこうラクにたのしくする本』『オトナ婚です、わたしたち』(太郎次郎社エディタス)ほか。共著は『子どもの人権をまもるために』(晶文社)、『ブラック校則』(東洋館出版社)など。東洋経済オンラインで「おとなたちには、わからない。」、「月刊 教職研修」で「学校と保護者のこれからを探す旅」を連載。ひとり親。定形外かぞく(家族のダイバーシティ)代表。