都内の公立小学校PTAで、役員と会長が対立し、次期会長不在のまま新学期を迎えるという前代未聞の事態が起きた。何が原因だったのか。ライターの大塚玲子さんがリポートする――。
背中合わせに立つ男女のシルエット
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3世代前から代々住んでいる住民の発言力が絶大

春うららの年度初め、母親たちに緊張をもたらす脇役として存在感を放ち続けるPTA。昔はよく“専業主婦vsワーママ”の対立構図で取りあげられたものですが、時代は変わりつつあります。

つい先日、「ワーママ役員vs地元民の父親会長」の反目で本部役員選出が膠着こうちゃくし、会長未決のまま新年度に突入したPTAがある、という話を友人が知らせてくれました。

舞台は東京都某区の、公立小学校PTA。都会だね、という印象の街ですが、実はこの地区は「3世代前から代々住んでます」という住民も多く、且つこの方たちの発言力が絶大なのだとか。

話を聞かせてくれたのは、この地区に6年ほど前に移り住んできた母親、光世さん(仮名)です。会社を経営しており、中学生と小学生の子どもを育てています。

「会長に直接連絡してはいけない」謎ルール

光世さんは数年前、同PTAで役員を引き受けたことがあるそう。このとき、前時代的な風習の数々に驚愕きょうがくしたといいます。

配布物はすべて紙で、「会長に連絡するときは、必ず委員長→副会長を通す」のがお約束。「地域のおえらいさん」には非常に気を遣っており、「校医である○×病院の院長にご挨拶を」「商店街会長の△□さんには、必ずお酒か甘いものを手土産に持っていく」など、土着ルールのオンパレードでした。

「周年行事など『地域のえらい人』が来るときは、席次表をつくるのも一苦労でした。『この会長は一番いい席じゃないとダメ』だとか『この人より前に必ずあの人の名前を呼ばないと大変なことになる』だとか、『あの人とあの人は絶対に席を近づけてはいけない』だとか、保護者の範疇を超えた『仕事』が山のようにあって。

私は引っ越してきたばかりだったので、知らないふりをしてばんばんアップデートを進めていたんですが、そうしたら『ちょっと変わった人がいる』ってウワサになってしまいました(苦笑)」(光世さん)

「ヨソもの」会長は1年でいなくなった

PTA会長の選出方法も「ザ・昭和」でした。前会長(もちろん父親)が次期会長(やはり父親)を「ご指名」するのですが、このとき候補にあがるのは「代々この土地に住んでます」という地元民限定です。

一度会長になったら、子ども全員が卒業するまでは何年でも続ける、というのも暗黙のルールでした。

「私が知る限り、何年か前に珍しく『ヨソもの』が会長をやったそうなんですが、やはり1年でやめたそうです。周囲にやめさせられたのか、本人が嫌になってやめたのかわかりませんが、とにかく苦労したらしく。それくらい『土着の人』じゃないと、うまくやれないみたいですね」(光世さん)

バリバリのワーママ役員が反旗を翻した

一昨年度、そのPTA会長がようやく交代することになりました。それまで4年ほど同じ父親が会長をやっていたのですが、その子どもが卒業したからです。

これが悲劇の始まりでした。次に会長になった男性は、「極端に何もできないのに、やたらと威張るタイプ」だったのです。

まもなく、実務を担う本部役員の母親たちが一人残らず怒り出しました。

「会長さんは代々ここに住んでいる方で、家業や不動産の収入があるから、ワードやエクセルを使う一般的なお勤めをされたことがないらしいんです。メールやLINEを送っても話の要点を理解できなくて、会長が判断を求められている内容でも、一切返事をせずに読み流してしまう。

一方、母親たちは働いている人ばかりで、しかもこの辺りに住むのにはそれなりにお金がかかるから、いい会社でバリバリやっている方が多い。そのお母さんたちと、PTA会長のお父さんの温度差が、非常に激しくなってしまって。なのに、その会長さんは『わからないことは全部俺に聞きに来いよ』みたいな態度を取ったもんだから……」(光世さん)

こりゃダメだ、と見切りをつけたワーママのひとりが「次年度は私がやります」と会長に立候補したのは、ごく自然ななりゆきでした。

マイクで話すPTAの女性
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会長未決のまま新年度に突入する前代未聞の事態

でもその男性も、会長であることは、まんざらでもないのです。自分がおりる気はまったくなく、前会長やそのまた前の会長らとタッグを組んで、対立候補の母親を排除しようとしたのでした。ちなみに、前会長や前々会長の子どもはとっくに卒業しているのですが、このPTAでは「歴代の会長が口を出すことは当たり前」なのです。

こうなるともう、選挙で会長を決めるほかなさそうですが、これも簡単ではありません。PTAや管理職の先生の間では、よく「保護者の間にあとあと禍根を残すから、選挙はやらないほうがいいのだ」という“言い伝え”のようなものがあり、選挙が忌避されてきたからです。そのため、現在も多くのPTAには役員選挙のノウハウがありません。

校長や副校長も、会長選びに関しての発言権はほぼゼロです。地元の人間ではないので、光世さんと同様に「外様」の扱いなのです。

そうこうしている間に新年度がスタートしたため、先日行われたPTA総会では「会長は未決です」という前代未聞の状況に陥ったのでした。

パソコンを前にスマホを持って座っている女性
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東京も必ずしも進んだPTAばかりではない

「会長が決まった」と光世さんから筆者が連絡をもらったのは、ほんの数日前のことです。結局、昨年度まで会長だった地元民の男性が「家庭の事情」(本人弁)によりやむなく役をおりることになり、立候補したワーママが無事、会長に内定したのだそう。

ワーママ会長は、既にデキる母親・父親らに声をかけて本部役員の布陣を敷いており、もちろん光世さんもその一人だということです。

役員はもうやらないつもりだったそうですが、「今年度は面白いことができそうだから、誘いに乗ってみた」という光世さん。まずは、会議のペーパーレスなどから進めていく予定です。

「東京のPTAでも、そんなところがあるの⁉」と驚いた方も多いかもしれませんが、そう、実は意外とあるのです。都会ならみんなPTA改革が進んでいるかというと、そうとも限らず、白黒写真から抜け出したようなPTAもまだ決して珍しくありません。

ただし、光世さんのPTAはこれから急ピッチで変わっていくかもしれません。東京だろうと地方だろうと、役員の足並みがそろって、且つ管理職の先生の賛同が得られさえすれば、PTAはがらりと変わるものです。