好きな仕事も体を壊してまでやることでない

冒頭のYさんは、2カ月ほど休職して体調が回復。復職することになりました。しかし、まったく同じ環境だと再発する可能性があるので、同じ部署ではありますが、プロジェクトリーダーの役割やクライアントとの折衝役からははずれ、業務量も制限して残業はしないことになりました。

Yさんの場合は、比較的早い段階で治療を始められたため、2カ月ほどの休職で復職できるほどに回復できました。しかし、なかなか受診せず、働き方も変えないままで症状を悪化させてしまうケースや、受診をして適応障害の診断を受けたものの、職場の理解が得られず休職が先延ばしになり、結局治療に時間がかかってしまうことはたくさんあります。本人だけでなく、職場全体が適応障害への理解を深めることが重要です。また、自分の心身の調子がすぐれないときに早めに相談したり、ほかの人の兆候に早めに気付けるような職場づくりをしてほしいと思います。

周りから見ると、Yさんは、せっかくプロジェクトリーダーになったのに、そのポジションから離れることになったので、挫折したように見えるかもしれません。しかしYさん本人にとっては、健康の大切さに気づく、よいきっかけになったようです。大好きな仕事でも、体を壊してまでやることではない、自分が健康に働けるペースを守ることが重要だと実感する機会になりました。

構成=池田純子

井上 智介(いのうえ・ともすけ)
産業医・精神科医

産業医・精神科医・健診医として活動中。産業医としては毎月30社以上を訪問し、精神科医としては外来でうつ病をはじめとする精神疾患の治療にあたっている。ブログやTwitterでも積極的に情報発信している。「プレジデントオンライン」で連載中。