「皇太子不在」という皇室の現状

したがって、内閣や宮内庁の立場としては、少なくとも今の制度の下では、天皇陛下がお出ましになれない場合は、順番として現在、「皇太子」ではないが皇位継承順位が第1位(皇嗣)とされている秋篠宮殿下に代理を務めていただく、という結論に落ち着く。

ところが、第三として秋篠宮家への一般的なイメージが、残念ながらいまだ十分に改善されていないという事情がある。

しかも、秋篠宮殿下のご年齢からして、不測の出来事でもない限り、実際に即位される可能性は低いと見られる。そのようなお立場の方が、皇室を代表して戴冠式に臨まれることへの違和感もあるだろう。

「国民の気持ち」と「制度」のギャップ

これらの事情が複合されて、天皇・皇后両陛下や敬宮殿下ではなく、秋篠宮・同妃両殿下がチャールズ英国王の戴冠式に参列されることに対して、内閣や宮内庁が予想しなかった逆風に直面する事態になったと考えられる。

端的にいえば、天皇・皇后両陛下のお出ましがご無理だったとしても、国民の敬愛を集めるご長女の敬宮殿下という、代理に最もふさわしい方がおられる。にもかかわらず、ただ「女性だから」というだけの理由で皇位継承資格を一切認めず、天皇陛下のご長子なのに「皇太子」になれないという、旧時代的なルールが今も維持されている。そのために、国民の気持ちと制度との間に大きなギャップが存在する。この現実こそ今回の事態を招いた最大の原因だろう。

こうした制度上のねじれが残っている限り、皇室にとって憂慮すべきことであるが、同じような事態が繰り返されるおそれがある。

高森 明勅(たかもり・あきのり)
神道学者、皇室研究者

1957年、岡山県生まれ。国学院大学文学部卒、同大学院博士課程単位取得。皇位継承儀礼の研究から出発し、日本史全体に関心を持ち現代の問題にも発言。『皇室典範に関する有識者会議』のヒアリングに応じる。拓殖大学客員教授などを歴任。現在、日本文化総合研究所代表。神道宗教学会理事。国学院大学講師。著書に『「女性天皇」の成立』『天皇「生前退位」の真実』『日本の10大天皇』『歴代天皇辞典』など。ホームページ「明快! 高森型録