2020年に英国王室を離脱し、妻子とアメリカに住むヘンリー(ハリー)王子が1月10日に回顧録を出版した。イギリス在住のジャーナリスト、冨久岡ナヲさんは「回顧録は発売初日に40万部が売れてベストセラーになったが、店頭では早々に半額で売られていた。英国国民はハリーの一連の行動にうんざりしており、この本の出版は、王室だけでなくハリー自身の評判を落としている」という――。
ロンドン市内の書店のショーウインドーに並べられた、ヘンリー王子の回顧録。どの書店でも初めから半額で売られていた
写真=冨久岡ナヲ
ロンドン市内の書店のショーウインドーに並べられた、ハリー王子の回顧録。どの書店でも初めから半額で売られていた

店頭ではいきなり半額

この記事を書くため、英国王室を離脱したヘンリー王子ことハリーが出版した回顧録『Spare(スペア)』を近所の書店へと買いに行ったのは発売日翌日、1月11日の夕方だった。

書店の店頭に貼られたヘンリー王子の回顧録『スペア』のポスター。どの書店でも初めから半額で売られていた
発売日に、書店の店頭に貼られたハリー王子の回顧録『スペア』のポスター。大きく「半額」と書かれている(写真=冨久岡ナヲ)

店頭にはポスターが貼られ、店内では本が平積みになっている。価格は28ポンド(約4500円)だが、なぜか既に半額の14ポンドになっている。ともかく本を1冊取りレジに行くと、店員が「ほほう!」と声をあげニヤニヤと私を見た。隣のディスプレー棚には、その週のトップセラー本が並べられ『スペア』は発売24時間にしてすでに1位だ。しかしこの店員によると、店では私が2人目の購入者だそう。それでも1位ということは、他の人はみなオンラインで密かに購入しているのだろうか? なんだかアダルト雑誌でも買ったような気分になり、そそくさと店を後にした。

そういえば発売日の朝には、都心の大型書店前に多数のTVカメラが陣取っている様子がテレビに映し出されていた。ところが朝6時に店頭にいたのはたった1人。その50代の女性は「ハリーの肩を持つなんてバカだってみんなに言われるけど、私は気にしないわ!」とコメントしている。

ベストセラー入りの謎

そのわりには、翌日のニュースは『スペア』が発売初日に40万部の売り上げを記録しベストセラー入りしたと報じていた。自分の周りにハリーの味方はいないし、Z世代は「王室には関心ゼロ」とそっぽを向いているのに。

『スペア』の隣には『恋愛の8つのルール』という恋愛指南本が。「実はハリーとメーガンがすでに仲が悪いのではないか」という噂をからかっている
『スペア』の隣には『恋愛の8つのルール』という恋愛指南本が。「実はハリーとメーガンがすでに仲が悪いのではないか」という噂をからかっている(写真=冨久岡ナヲ)

半額なら面白半分でネット注文した人が多いだろうとは想像がつくが、SNSで「ハリーが自分で大量購入しているのでは? 版元のペンギン・ランダムハウス社によると170万部売れないと元が取れないらしいし」という書き込みを見かけたときは、さもありなんと思ってしまった。ロンドン郊外にある独立系書店「バーツの本屋」は、「『スペア』は単品では注文できず、1冊仕入れたくても12冊入りのケース単位でしか注文できない」とツイッターで嘆いていた。ケース単位で全国の本屋に卸せば確かに冊数はさばけるだろう。

ただ、批判の嵐の中にも「ハリー達が王室を離れ声を上げたのは偉い」という意見は散見される。「王室が続く限り、生まれつき籠の中に閉じ込められた王族の紛争も続く」と考える、ジャーナリストのケイトリン・モーランは、『スペア』を読めばハリーの行動に合点がいくとSNSで発言していた。