「わざと園遊会を5月にぶつけた」説まで

ところが、事態はなかなか沈静化の兆しを見せない。

コロナ禍に配慮して平成30年(2018年)秋の開催以来、実施を見送ってきた園遊会が、令和になって初めて5月11日に開催されることが発表されると、天皇陛下の戴冠式へのご参列を邪魔するために、例年、4月に行われてきた園遊会を宮内庁があえて5月にぶつけた、という陰謀論まがいの言説まで飛び交う始末だ。

しかし、これまで園遊会が5月に開催された例もあるし、今回は新型コロナウイルス感染症の分類が「5類」に引き下げられる5月8日以降に設定されたにすぎず、そもそも戴冠式と園遊会の日程は重なっていないので、上記のような臆測は何ら根拠を持たない。

しかし、こうした反発が生じている事実それ自体については、軽視できない。

宮内庁の説明の説得力

そこで、改めて宮内庁が挙げた2点について見ると、理由の①は残念ながら十分な説得力を持たない。なぜなら、天皇陛下が先頃、エリザベス女王の国葬に参列されたこと自体が、異例の出来事だったからだ。

皇室では、外国王室や元首の葬儀に天皇は参列されないのが、慣例だ。しかし、上皇陛下が天皇であられた当時、ベルギーのボードワン国王の葬儀に上皇后陛下とご一緒に参列されている。これは上皇陛下の強いお気持ちによるものとされている。今回も天皇陛下のご熱意によって、国葬への異例なご参列を果たされた。

日本の皇室と英国の王室、天皇陛下とエリザベス女王やチャールズ現国王とのつながりは、前例や慣例だけで単純に割り切ることはできない。そのことを多くの国民は敏感に感じ取っている。

しかも今回は、招待する側の英国王室自身が、「戴冠式には皇太子クラスを招く」というこれまでの慣例を打ち破ろうとされているようだ。ならば、宮内庁の説明はますます説得力を失う。

では、理由②はどうか。

こちらは①よりは説得力を持つだろう。天皇陛下はすでに昨年、エリザベス女王の国葬のために英国を訪れておられる。今後、そう遠くない将来に、英国を国賓として訪れられるのであれば、「天皇」という重い地位に照らして、また諸外国からも天皇陛下のご訪問への要望があることを考慮すると、英国だけに対して短期間に頻繁にお出ましになることは、バランスを欠くことになるからだ。

だが、天皇陛下の国賓としての英国ご訪問は、具体的にいつ頃になるのか。漠然と「早期に実現する方向」というだけで、そのスケジュール感が国民にまったく伝わらない状態では、やはり説得力に欠けると言わざるをえない。

宮内庁にとっては不本意かもしれないが、「まず慣例ありき」で“後出しジャンケン”的な言い訳を急ごしらえで準備した――という印象を与えてしまう。

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