夫婦仲が険悪で家庭が壊れかけている妻の心の隙を突く
【横道】統一教会の場合は、「祝福」と呼ばれる合同結婚式を経て、つまり信者同士が結婚して、「祝福2世」が生まれてくるというやり方を取るため、両親とも信者のことが多いですが、夫は信仰が薄く、妻が熱心という事例をよく聞きます。エホバの証人の場合は、子育てを丸投げされるなど夫婦仲が険悪で、家庭が壊れかけているところに、その妻の心の隙を突くようにして布教してきます。戸別訪問をする昼の時間帯に家にいることが多いのは夫より妻ですしね。で、妻が入信して、夫は信仰しないことが多い。家族全員が信者の場合は「神権家族」と呼ばれて、そうでない家の妻たちから憧れの目で見られます。
統一教会の場合では、それでもいざというときには父親が信者としてアクティヴに活動することが多いですが、エホバの証人では、子どもたちは多くの場合、母親の支配下にあります。公平に言えば、主婦の心の空洞化の問題は大きいはずです。つまり、誰にも相談できずに行き詰まってしまった孤独な妻かつ母親の立場にある女性が、温かく優しい言葉遣いで新興宗教に誘われ、囚われるというパターンです。
2世問題は親次第で最大のキーパーソンは母親
【斎藤】いまおっしゃったことは、けっこう大事な指摘である気がします。ヤマギシも、一家ぐるみで参画しないと駄目なので、両親ともその思想を共有している場合が多いんですけど、統一教会もおっしゃるとおり、合同結婚をしているわけですから、両親とも信者の組み合わせが多くなりますね。ひょっとして、両親とも信者である場合と、母親だけが信者で父親は反対していて、その葛藤を見てきている場合とで、2世問題の前面に出てきやすさに、違いがあると思われます?
【横道】さまざまな教団の2世の話を聞いていると、現代の日本では家庭のなかで存在感を発揮するのは父親より母親であることが多いので、最大のキーパーソンが母親であることは、多いと感じます。
カルト問題の専門家には、あまり親子問題の話にしたくない、問題は親にも子どもにも影響を与えているカルト団体なんだという人が多いのですが、私はそこは、もう少し複雑だと思っています。親は対カルトでは被害者ですが、子どもに対しては加害者なので、カルト問題は「親次第」という面があると思います。もちろん、親に問題があるとしても状況を悪化させているのは宗教団体なので、そちらを免罪して良いとは思いませんが。
1979年大阪市生まれ。京都大学大学院人間・環境学研究科研究指導認定退学。文学博士(京都大学)。本来はドイツ文学者だが、40歳で自閉スペクトラム症と注意欠如・多動症を診断されて以来、発達障害の当事者仲間との交流や自助グループの運営にも力を入れ、その諸経験を当事者批評という新しい学術的・創作的ジャンルに活用しようと模索している。著書に『みんな水の中 「発達障害」自助グループの文学研究者はどんな世界に棲んでいるか』(医学書院)など。
1961年、岩手県生まれ。筑波大学医学研究科博士課程修了。爽風会佐々木病院等を経て、筑波大学医学医療系社会精神保健学教授。専門は思春期・青年期の精神病理学、「ひきこもり」の治療・支援ならびに啓蒙活動。著書に『社会的ひきこもり』、『中高年ひきこもり』、『世界が土曜の夜の夢なら』(角川財団学芸賞)、『オープンダイアローグとは何か』、『「社会的うつ病」の治し方』、『心を病んだらいけないの?』(與那覇潤との共著・小林秀雄賞)など多数。