驚くほど弱かったロシアの軍事力

さらに今回わかったのは、開戦当初に始まって、その後のウクライナ軍の優勢を見る限り、ロシア軍が驚くほど弱かったことだ。侵攻当初など、数の上でも劣勢で防衛に徹しているウクライナ軍が、アメリカやNATOが供与する武器を駆使し、大軍による首都キーウの攻略を諦めさせた。

武器のハイテク化の遅れに加え、世界一広大なロシアの人口は1億4400万人、西側はアメリカだけで3億3000万人、NATO諸国を加えれば兵力に圧倒的な差が出るのは明白である。国土の大きさに惑わされていたが、ロシアはじつは広い「北朝鮮」のようなものだ。エネルギー資源を除けば、主な産業は軍需産業くらいしかない。西側諸国より格安で紛争国に武器輸出しているが、自動小銃などはとにかく、戦車などの水準は低い。

精密誘導ミサイルの精度も、米戦略国際問題研究所によると、ものによっては命中率が50%に満たないものがあるという。半分以上が命中しないとはどういうことだろう。

一方でウクライナの巡航ミサイルによって、巡洋艦モスクワが撃沈されている。ウクライナはそもそもが「旧ソ連の兵器庫」といわれたほど、軍事技術は高水準である。

ロシアはなぜ制空権をとろうとしないのか

さらに不思議なのが、ロシアが制空権をとっていないことだ。現代の戦争は、まず巡航ミサイルか航空機戦力で空爆し、長距離砲で砲撃し、反撃能力を十分奪って地上軍の投入というのが一般的だが、今回の侵攻ではその手順を踏んでいない。

ロシア軍には、旧ソ連時代から地上部隊の作戦の援護的役割として、航空機戦力を活用する伝統がある。ウクライナを甘く見ていたこともあるだろうが、約3500機を超える軍用機(『世界の空軍2016』による)をもちながら、プーチンも伝統的な地上部隊中心の作戦にこだわってしまったのか。少なくとも、長期にわたる全面戦争を想定せず、地上部隊で電撃的に攻略できると考えていたことは、ここからもわかる。

逆にウクライナ軍の方は、相当に準備していたようだ。8年前のクリミア侵攻からの経緯を思えば、ロシア軍の脅威に手をこまねいてすごしているはずはない。NATOからは、ロシア軍に関する情報や軍事技術の提供、最新兵器の供与と使用法の指導などは侵攻前から行われていた。