パワハラ風土がパワハラ上司を生み続ける
パワハラをする人は、仕事ができる人であることも多く、会社の側も重宝してしまい、パワハラの訴えにも目をつぶってしまうことがあります。しかしそうすると、パワハラをよしとして見逃す風土が会社の中に出来上がってしまいます。最初にご説明した通り、そういった風土があると、パワハラを受けた部下が上司になったときに、またパワハラをする上司になります。どんどん負の連鎖が起き、パワハラ上司を生み続けてしまうのです。
実際、私が産業医として関わった企業の中にも、パワハラをしている人に対して「懲戒などの処分はないんですか?」と質問をしても、「あの人も頑張ってはいるんだよね」と、結局お咎めなしで終わってしまうといったことがあります。
会社の風土を変えるには、やはり経営層の意思が大切で、「いくら営業成績がよかろうが、仕事の能力が高かろうが、ダメなものはダメ」というメッセージを、トップがはっきりと打ち出す必要があります。
トップが「この会社ではハラスメントは一切許しません。何かあったらいつでも通報してください」というきっぱりとした声明を出せば、「トップがそう言っているんだから、もし自分がパワハラの被害に遭ったり、ハラスメントを目撃したりしたときには、会社に言えば、きちんと対応してくれる」という、社員の心理的安全性につながります。実際に、社長がそういった姿勢をはっきり打ち出したことで、社内の空気が一変した例もあります。そうやってパワハラなどのハラスメントが減れば、離職率も下がります。
場合によっては転職も考えて
いじめやハラスメントの当事者は少数で、ほとんどが傍観者です。いじめやハラスメントの現場では、この傍観者が非常に大きな役割を担っていて、傍観者が安心して声を上げられる風土や環境があれば、被害は減っていきますし、会社は変わります。ぜひ、正しい傍観者マインドを持ってほしいと思います。
一方で、そもそも傍観者が安心して声を上げることができる心理的安全性がなく、パワハラを容認する風土の会社であれば、パワハラ上司を再生産する可能性は高いでしょう。パワハラは、パワハラ上司1人だけの問題ではなく、そういった上司を生み出し、そのままにしている会社の問題でもあります。会社側が、こうした問題に気付かない、または見て見ぬふりをしており、トップが改善の意思を全く見せていない場合は、離職や転職も考えてほしいと思います。
構成=池田純子
産業医・精神科医・健診医として活動中。産業医としては毎月30社以上を訪問し、精神科医としては外来でうつ病をはじめとする精神疾患の治療にあたっている。ブログやTwitterでも積極的に情報発信している。「プレジデントオンライン」で連載中。