埋没されたあと骨格標本になったザトウクジラ

データベースを眺めていくと、かつて筆者が解剖に参加した「2010年に千葉県館山の海岸に漂着したザトウクジラ(体長約10m)」の事例を発見した。作業後の状況を全くフォローしていなかったのだが、このザトウクジラは一度埋設されたあと、沖縄県名護市から「骨格標本として引き取りたい」との要望があり、3年後に無事掘り起こされたらしい(参考12)。

こんなふうに複数の自治体によって標本化が達成されることもあれば、骨格標本にする予定で埋設したものの、予算の折り合いがつかず、埋まったまま放置されることもよくあるそうだ(参考13)。埋設時にかかる費用は、骨格標本にするかしないかで大差ないので、たとえ掘り起こせなかったとしても損するわけではない。海洋投棄が「海に還した」ならば、埋設後に放置することとなったケースは「土に還した」というわけだ。

今回の記事では、オンラインで読むことができる記事や、誰でも利用できるデータベースを多数引用して執筆した。これらを利用することで、誰でも“調べ学習”を行うことができるはずだ。「よく知らないけれど、きっとこうだろうな」といった印象で終わらず、少し調べてみると、新たな知見や意外な発見が待っているかもしれない。

※参考文献
1.大越健嗣(2008)『浮く鯨と沈む鯨 その分解過程から推定される異なった鯨骨生物群集の成立プロセス』(『月刊海洋』40号)
2.岡部晴菜et al. (2021)『那覇空港に漂着したマッコウクジラ 腐敗の経過観察と鯨体の処理方法について』(令和3年度沖縄ブロック国土交通研究会)
3.村田敏雄(2002)『マッコウクジラ集団座礁の顛末記』(海洋政策研究所ニュースレター第42号)
4.窪川かおる et al. (2007)『鯨骨生物群集の形成とその特殊性』(化学と生物Vol.45, No.6)
5.藤原義弘(2004)『集団座礁したマッコウクジラのその後―無人探査機「ハイパードルフィン」を用いた潜航調査概要』(日本ベントス学会誌,59)
6.科博登録ID:3534
7.科博登録ID:5563
8.科博登録ID:4418
9.科博登録ID:993
10.科博登録ID:5693
11.科博登録ID:2556
12.科博登録ID:6591
13.田島木綿子(2021)『海獣学者、クジラを解剖する。 海の哺乳類の死体が教えてくれること』(山と溪谷社)

郡司 芽久(ぐんじ・めぐ)
解剖学者

東洋大学生命科学部生命科学科助教。東京大学農学部を卒業し、同大学院農学生命科学研究科で博士号を取得。帝京科学大学アニマルサイエンス学科非常勤講師、国立科学博物館学振PD、筑波大学システム情報系研究員を経て2021年4月より現職。キリンの解剖学者として知られ、『キリン解剖記』(ナツメ社)、『キリンのひづめ、ヒトの指 比べてわかる生き物の進化』(NHK出版)などがある。