埋没処理し骨格標本にしたいという希望も

処理費についても、「海洋投棄の方が埋設に比べて明らかに低コストである」と思っている方が多いように見受けられた。今回、多くの専門家が「陸上に引き上げて埋設し、可能ならば骨格標本にしましょう」という意見を挙げていたが、これについて「陸上での作業の方が間違いなくコストがかかる」「専門家はコスト度外視だ」といった意見を見かけた。しかし、国立科学博物館が公開している「海棲哺乳類ストランディングデータベース」を調べてみると、海岸に漂着した大型クジラを埋設した場合は1頭約200万、埋設と焼却を組み合わせたケースでは約400万、海洋投棄したケースでは400万ほどかかっていることがわかる(参考6、7、8)。

ただし、ほとんどのケースでは処理にかかった金額は記載されていないため、かかった費用を知ることができるのはごくわずかな事例のみだ。これらが平均的な金額なのかは判断しかねる。さらに気をつけなければならないのは、従来の埋設事例の多くは「海岸に漂着したクジラをその場で埋めた」というものであるため、川岸から埋設地まで曳航して移動する必要があった本件とは状況は異なっている。曳航や引き上げには手間暇も費用もかかることは想像に難くないので、今回の例は従来よりも随分高額になるのではないかと予想される。

土運船で紀伊水道沖まで運んだ今回の費用は…

一方で、海洋投棄にも、錘つきのクジラを積載できる大型の船(今回は土運船)を動かすのに必要な燃料費がかかる。今回のケースでは、従来の海洋投棄例よりも随分遠くまで移動しており、紀伊水道沖までの片道10時間ほどの燃料費がかかっている。素人の私からすると一体それがいくらになるのかは想像もつかないが、決して安いものではないだろう。

費用以外の観点でも、埋設処理の場合は、土地の確保についても考えなくてはならない。海洋投棄も同様に、「漁業に影響が出ず、再浮上したとしても再漂着や洋上事故が起こらない投棄ポイント」を調整する必要があっただろう。また、海洋投棄は埋設処理に比べて事例が少ないため、経験やノウハウの蓄積があまり多くないという難しさもある。

これらのことを踏まえると、今回の件は「こちらの処理の方が明らかに安価で自然に沿った方法である」と第三者が簡単に判断できるものではなかったように思われる。予算・経験値・時間など、複数の要素が混じり、関係者の方々が議論と検討を重ねて「海洋投棄」との判断になったのだろう。