ハラスメントを苦に職場を去る人が後を絶たない。その数、年間86万人(推計)。うち、57万人は退職理由を会社に伝えていない。人事ジャーナリストの溝上憲文さんは「企業としては自己都合で黙って辞めていくからといって安心できない。ハローワークに失業手当の給付手続きに行ったとき『パワハラで辞めました』と申告があり、発覚するという事案が増えている」という――。

精神的健康度が低い人が43.1%

コロナ禍でリモートワークなど働き方や職場環境も大きく変化したが、職場での会話が減少し、人間関係の希薄化によるメンタル不調やハラスメント被害も発生している。

実際にメンタル不調者も増えている。NTTデータ経営研究所の調査でも浮き彫りになっている(「ウィズコロナ時代における、働く人のストレス解消方法とメンタルヘルステックの活用可能性に関する調査」2022年10月6日)。

同調査では「WHO-5精神的健康状態表」を使い、調査参加者の精神的健康状態(メンタル不調の程度)を測定。合計点数が13点未満の参加者を「精神的健康度が低い」とみなして調べた。その結果、43.1%が精神的健康度が低い状態にあることがわかった。精神的健康度が低い人の67.6%がワークエンゲージメント(仕事に積極的に向かい活力を得ている状態)が低かった。

仕事のストレスの内容で最も多かったのは「対人関係」の35.1%、続いて「仕事の量」(30.2%)、「仕事の質」(26.0%)、「仕事の失敗・責任の発生等」(18.5%)の順だった。年代別では20代・30代は「仕事の量」(34.4%、36.0%)が多く、40代・50代は「対人関係」(42.6%、30.0%)が最も多かった。

頭を抱える女性
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コミュニケーション不足から人間関係のトラブルに

コミュニケーション不足による対人関係の悪化はメンタル不調を引き起こすだけではなく、ハラスメントなどのトラブルとも密接に関係している。今の職場の雰囲気について企業でカウンセリングを担当しているキャリアコンサルタントはこう語る。

「ちょっとした会話や雑談もない職場はトラブルを起こしやすい。今の職場はコロナもあって私語を控えるとか、あるいはプライベートに関わる話題は避けようとする傾向がある。電話をかけるのは相手の時間を奪うのではと気にして、オフィスにいてもチャットなど文字ベースのやりとりをする人も増えている。しかし文字だけだと細かいニュアンスが伝わりにくく齟齬そごが生じやすい。真意が伝わらないまま一方的に解釈してしまい、相手に不信感や猜疑心を抱きやすく、行き違いによるハラスメントなどのトラブルも発生している」