サフランチューク氏の岸田政権評価
ウクライナ戦争が起きた現在、岸田文雄政権の対ロ政策は、ロシア側にどう映っているのか。
サフランチューク氏は、日本が欧米との連携を強めており、「安倍氏の遺産は遠ざけられている」と言う。しかし、現在のような欧米の価値観に歩調を合わせた外交はいつまでも続けられないと見ている。
今後の対ロ政策は安倍外交路線に戻るのか…
日本が安倍外交路線に戻るかどうかは、ウクライナ戦争の帰結に左右される。
ロシアがウクライナ戦争で一定の成果を得た場合、アメリカは実質的な敗北を喫する。バイデン大統領は、ただでさえ低い支持率をさらに低下させ、次期大統領選挙で政権交代が起きる可能性も排除できない。政権が変わったときにアメリカの対ロ外交の論理は転換するだろう。
「価値の体系」が肥大化した西側の外交が行き詰まったとき、日本は、「価値の体系」「利益の体系」「力の体系」の三つの体系をうまく操ってきた安倍氏の外交遺産を活用せざるを得なくなるとロシア側は見ている。
ニコノフ氏が、安倍氏のことを反米でも親ロシアでもないと認識していたように、自国の利益のために何が最適かを模索する愛国者で、かつ、交渉相手国の利益にもつながる戦略的思考ができ、リアリズムに徹した対話可能な外交ができる政治家――ロシアの政治エリートが安倍氏を尊敬し、信用した理由である。
1960年、東京都生まれ。85年同志社大学大学院神学研究科修了。2005年に発表した『国家の罠 外務省のラスプーチンと呼ばれて』(新潮社)で第59回毎日出版文化賞特別賞受賞。『自壊する帝国』(新潮社)で新潮ドキュメント賞、大宅壮一ノンフィクション賞受賞。『獄中記』(岩波書店)、『交渉術』(文藝春秋)など著書多数。