ロシアの弱さに最大限につけ込んだ小泉氏

当時の北方領土交渉は「日ソ共同宣言」に基づいて進められていた。しかし、この流れは小泉純一郎政権の誕生によって断たれてしまう。サフランチューク氏の言う〈ロシアの弱さに最大限につけ込む〉外交を日本は展開した。当然、北方領土交渉は動かなかった。

民主党政権を経て、安倍氏が首相に就任した頃のロシアは、ソ連崩壊直後の弱いロシアではなく、資源輸出大国として力をつけていた。安倍氏は対ロ外交を大きく転換させた。それをサフランチューク氏は次のように解釈する。

〈安倍氏はロシアが強くなることに賭けた。強いロシアと合意し、協力関係を構築する。アジア太平洋地域においてもロシアを強くする。それが日本にとって歓迎すべきことだ。地域的規模であるが、アジア太平洋地域において多極的世界を構築する。ロシアの弱さにつけ込むという賭けではなく、ロシアの力を利用し、強いロシアと日本が共存する正常な関係を構築することだ。これが、安倍が進めようとしていた重要な政策だ。

(2014年に)クリミアがロシアの版図に戻ったとき、日本では再び西側諸国のロシアに対する圧力を背景に、ロシアが日本に対して何らかの譲歩をするのではないかという発想が出てきた。

ロシアと長期的で体系的な関係を構築しようとした安倍氏

私の考えでは、安倍氏は賢明な政策をとり、西側諸国の単純なゲームが成り立たないことを理解し、ロシアの戦術的弱点につけ込むという選択をしなかった。そして、ロシアと長期的で体系的な関係を構築しようとした〉(同前)

欧米諸国にとってロシアは基本的な価値を共有できない国であり、強くなれば脅威の側面がせり出してくる。

ロシアとアメリカの緊迫した関係
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しかし、日本の場合は事情が異なる。

自国の「価値の体系」「利益の体系」「力の体系」、そして北東アジアの地政学的状況を長い目で見るならば、強いロシアとの関係強化を進めたほうが国益に適う。したがって、すべてのケースで欧米諸国と歩調を合わせる必要はない。安倍氏はそれを行動で示した――サフランチューク氏はそう言いたいのだろう。