若くして成功することの弊害

ところが、人というのは、早い段階で成功してしまうと満足感(サティスファクション)が高まり、「自分の見ている世界は十分に正しいんだ」と思い込んでしまう傾向があるんです。結果、現状に満足するのでサーチをしなくなり、認知は狭いままになる。

さわぐちけいすけ、入山章栄『経営理論をガチであてはめてみたら自分のちょっとした努力って間違ってなかった』(日経BP)
さわぐちけいすけ、入山章栄『経営理論をガチであてはめてみたら自分のちょっとした努力って間違ってなかった』(日経BP)

若くして成功を収めたものの、その後は鳴かず飛ばずという経営者がたまにいますよね。これは、経営理論的には「慢心してサーチを怠ってしまった」せいと解釈できるんですよね。このように、特に若いうちに成功ばかりを経験することって、実は危険なんです。昔から「失敗は成功のもと」といいますが、若いうちはどんどん失敗して、「自分の見ている世界は狭い」と反省して、サーチを続けて認知を広げることも重要なんです(*2)。失敗体験の重要性は、経営学の実証研究でも示されているんですよ。

とはいえ、人の脳には認知系に加えて、感情系があります。失敗したら「情けない……」「なんて自分はダメなんだ」とめげてしまうのは自然な反応だし、落ち込みを引きずって反省できないこともあるでしょう。これは、脳の感情系のなせる技です。

失敗したときはスイーツ食べ放題へ

そこで僕がオススメしたいのが、「失敗したらお祝いする」を意図的にルールにすることです。「スイーツ食べ放題に行く」「ちょっといいお店でディナーする」「ちょっといいアクセサリーを買う」などなんでもいいから、失敗したとき限定のご褒美を用意するのです。

グラスカップに入ったストロベリーパフェ
写真=iStock.com/Stefan Tomic
※写真はイメージです

すると、ネガティブな感情がポジティブな感情に上書きされ、「失敗しちゃったけど、よかったかも!」と前向きな気持ちになる。感情面のネガティブがなくなるので、認知系のほうで、「よし、失敗を挽回するぞ」「今回のことはいい学びにして、次回に生かそう」と、失敗を学びに切り替えるスイッチが入りやすくなるはずです。

ちなみに、お酒好きの僕は、失敗したら思い切り良いお酒を飲むことにしています。実は先日もうっかり寝坊し、関わっている企業のとても大事な会議をすっぽかすという不始末をしでかしました……。ものすごくへこみましたけど、「こりゃ今晩は高いワインを飲むしかねえな」と思ったら、ちょっと元気になれました(笑)。ただし、「いつもやっていること」だと“ご褒美”にならないので注意してくださいね。僕も失敗した日に高いワインを飲むため、日ごろのお酒はなるべく安いものを飲んでいますよ。いや、ケチっているわけではないんです……。

*2 Madsen, P. M. & Deasai, V. 2010. Failing to learn? The effects of failure and success on organizational learning in the global orbital launch vehicle industry. Academy of Management Journal.

入山 章栄(いりやま・あきえ)
早稲田大学大学院経営管理研究科教授

1972年、東京都生まれ。慶應義塾大学経済学部卒、同大学院修士課程修了。三菱総合研究所へ入所。2008年、米ピッツバーグ大学経営大学院でPh.D.取得。その後、米ニューヨーク州立大学バッファロー校ビジネススクール助教授。19年より現職。専門は経営戦略論および国際経営論。著書に『世界の経営学者はいま何を考えているのか』(英治出版)、『ビジネススクールでは学べない 世界最先端の経営学』(日経BP社)、『世界標準の経営理論』(ダイヤモンド社)他