生殖補助医療で生まれる子が増えている
私たちは間もなく、経験したことのない少子高齢化の時代を迎える。2年後には“団塊の世代”と謳われ、戦後のベビーブームで年間270万人も生まれた人たちがいずれも75歳になり、“後期高齢者”と呼ばれるようになる。これに65歳以上を加えれば、すでに3600万人を超えているとのことだ。日本国民のほぼ3人に1人が高齢者になる計算だ。
では、新生児の出生数はどうかというと、こちらは減少の一途をたどっている。
団塊の世代が出産適齢期を迎えた70年代前半の出生数は200万人を超えていた。第2次ベビーブームである。それからわずか30年で出生数は半減し、2016(平成28)年にはついに100万人を割り込んだ。今年の出生数はさらに減り、80万人に満たないだろうと予測されている。
だが、出生数が減るなかで増えているものもある。体外受精などの生殖補助医療で生まれた子どもの数である。公益社団法人日本産科婦人科学会の発表によると、2018年に出産した女性のうち、16人に1人が不妊治療を受けての出産だったとのことだ。翌19年にその割合は14人に1人に増えている。不妊治療を施す医療機関は、全国で600施設を超えている。
子どもを願う切実さは今も昔も変わらない。
わずかなあいだに私たちの価値観やライフプランは大きく変わり、生涯未婚や、女性が子どもを産まない選択も受け入れられる時代にはなった。少子化が迎える厳しい現実を考えれば、子どもを産む女性がいたほうがいいが、女性あるいは夫婦の新しい生き方が優先される時代だ。
だが、それでも子どもを望む女性は少なからずいる。妊娠に至らなかった症例を加えれば、その数はかなりになるだろう。何度も不妊治療を試みる夫婦もいる。まだまだと言われそうだが、古い時代の日本社会に比べれば、女性の地位ははるかに向上した。子どもを産めなかったら里に帰されたり後ろ指を指されたりする時代ではなくなったが、子どもを願う女性たちの切実な思いは、きっとむかしもいまも変わらない。
だから、授かり地蔵にすがる女性がいて、夫婦がいるのだ。
お地蔵さんに詣で、子宝に恵まれるように願い、生命の誕生を祈る。
日本には、まだこんなにも美しい信仰が残されている。
新しい生命の誕生にはお地蔵さんに立ち会ってもらい、私もまた祈ろう。丹波篠山市のどこかで、健やかな産声があがればそれだけでいい。
1964年、新潟県長岡市生まれ。神奈川大学法学部卒。英国アストン大学留学。週刊誌記者を経てフリー。96年、第3回小学館ノンフィクション大賞・優秀賞を受賞。主な著書に『残酷な楽園』『都銀暗黒回廊』(ともに小学館)『敵手』(講談社)『世界は仕事で満ちている』(日経BP社)他。