保護者の交流ニーズは下火に

だが時代が移るとともに、女性たちの状況は変わっていった。専業主婦は減少し、パートや正社員として働く母親たちが増えていく。

専業主婦の状況も変わり、かつてのように時間に余裕のある人は少なくなった。いまの専業主婦は、多子世帯の人や、障害のある子、介護が必要な親、看病が必要な配偶者の世話をする人など、無償ながら負担の大きいケア労働を担う人が大半だ。

一方、働く母親たちの状況も変わっていった。かつて仕事をもつ母親は「子どもがかわいそう」などと後ろ指を指されたものだが、そんな非難も徐々に薄れていった。世間の価値観は急激に変わり、いまや子どもがいても仕事を続けることが奨励されるようになった。

そして母親たちは、時間を失った。女性たちは外で働くことを奨励される一方で、「これまで通り」に家事や育児、ケア労働をこなすことも求められているからだ。

そのため「学校での交流」というニーズは下火になった。「おしゃべりはしたいけれど、もうそこに時間を割く余裕がない」という人もいるし、保護者同士の交流自体を求めない人も増えた。

今は母親たちも職場で人と接するし、SNSなどネットで気の合う友人を見つけることもできる。この時代、保護者同士の交流を求める人が昔より減ったのは、当然のことだろう。母親たちが家に押し込められ孤立していた昔のほうが特殊な状況だったともいえる。

いまの母親たちの状況は、父親たちのそれと区別する必要がもうあまりない。むしろ、家事や育児を父親より多く担う分、母親のほうが忙しい家庭も多いのだ。

登校する少年を見送るエプロン着用の母親
写真=iStock.com/takasuu
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ニーズが下火になるほど、活動は義務化の方向へ

ところが、こうして母親たちの状況が変化する一方、ベルマーク活動は「義務化」していった。ふつうに考えれば、おしゃべりのニーズが下がればベルマーク活動も下火になりそうなものだが、現実には逆で「必ず参加すべき」という圧を強めていったのだ。

ベルマーク活動だけではない。ここ20~30年ほどの間に、PTAは母親たちへの強制を加速した。「仕事を休んでも必ず参加しろ」「休むなら代役を出せ」など、本人の意向を無視して活動を強いるのがある種「当たり前」になり、かつて求められた「交流の場」としての役割は忘れられ、PTAはむしろ母親同士のわだかまりを生む場となっていった。