言葉を尽くし、話を聞けば悪い縁にならない

私が先ほどのBさんに「諦」という字を贈ったのは、会社の状況をよく見極め、それと同時にリストラ対象になった方の状況もよく鑑みて、相手が納得するまで説明してあげてほしいと思ったからです。紙きれ1枚の通達だけでリストラを告げるような乱暴なやり方では、相手に「なぜ自分が切られなければならなかったのか」という恨みや悪感情が残ってしまいます。

逆に、「こういう市況のなか、会社はいまこういう状況です」と現状をできる限りオープンにして、相手が納得できるまで言葉を尽くし、「辞めてもらわなくてはならないけれど、今後どうしていきたいですか?」と話を聞く。そしてそれを踏まえて、相手にとって、できるだけ次の幸せにつながる方向に持っていく。そこまで心を尽くせば、そのご縁は、「恨まれる」「かれる」といった悪い縁にはなりません――。そう告げると、Bさんは安心したようでした。

道理を明らかにし、納得した道を進む

私はBさんに、道理の見極め方として「四諦」という教えについても伝えました。4つの真理とは、お釈迦様が最初に悟りを開いた時に説いた、どんな時も変わることがない真理を指しています。

4つのうちのひとつ目は、「苦諦くたい」です。人生は、迷いがあるから苦しみがある。その迷いは何から生まれているのかをしっかり見極め、現実を認識しなさいということ。第2の真理は「集諦じったい」です。苦しみは自分の飽くなき欲望から生じるものという意味。第3の真理は「滅諦めったい」といって、その欲望がなくなった境地が悟りである、というもの。

第4の真理「道諦どうたい」とは、悟りの境地に達するための実践法を指します。実践法は8つあり、それを「八正道はっしょうどう」と言います。ざっとご紹介すると、正しい見解、正しい思考、正しい言葉、正しい行い、正しい生活、正しい努力、正しい思念、正しい瞑想めいそうです。

この四諦、つまり、ものごとの道理を明らかにすることで、自分も周りも納得した道を進むことができるのではないか。そうお話ししました。

私のお寺は「照諦山 心月院 尋清寺」といい、「諦」の字が入っていますが、これも、四諦八正道から来ていて、「真理を照らす」ことを意味しています。