「最も旧統一教会の話題に触れない局」

その反響を見ての判断だろうか、産経内包らしい右傾保守姿勢で報道局員にすら岸家出身者が在籍していたことで有名なフジテレビでは、直前に放送内容を変更。国葬特番「FNN特報 安倍晋三元首相『国葬』」枠を発表当初の2時間から4時間へ大幅に広げた。平日正午前から、(週刊文春などで酷評される)情報バラエティー番組「ポップUP!」の放送枠を丸々潰し、午後11時45分から4時間に及ぶ特番「FNN特報 安倍晋三元首相『国葬』」を2部構成で放送するという、他局への明確な対抗姿勢(?)を見せた。

フジの国葬に対する姿勢は、当初から地上波テレビ局の中で最も右傾色が強かったといえる。暗殺者である山上徹也容疑者に対して広がった共感論に対しても、情報番組の主要なコメンテーターたちはその心理を理解しようと歩み寄るよりは「愚か者ども」と冷笑せんばかりだし、各メディアが熱く報じる旧統一教会と自民党の暗い関係性に至っては「地上波の中で最もニュースで旧統一教会の話題に触れない局」と、その謎を指摘されてきた。

安倍元首相の生前の政治が「いまだ評価が定まっていない」との国葬反対派意見などについても、笑止千万と言わんばかりだった。フジテレビ上席解説委員の平井文夫氏が「安倍晋三さんのどこが国葬に値しない政治家なのか誰か教えてくれ」と、なかなか扇情的なタイトルのコラムを発表するなど、そうか、情報・報道番組で苦戦中のフジはこの件に関してハンドルを遠慮なくそっち方向へ切ることでブランディングするのだなと感じた。

国葬ではなく合同葬で十分

いまここで私自身の立場を明確にしておくと、「国葬ではなく合同葬で十分、岸田内閣が参院選(弔い合戦)大勝の高揚感からフライングして引っ込みつかなくなってるだけ」と思ってきた。

そんな私だって人の子だから、無念の死を遂げた憲政史上最長政権の元首相のために、安らかな眠りを祈るくらいはもちろんする。だけど、国葬になってしまったことで安倍晋三氏への弔意が国民それぞれにカラフルで個人的なものから政治的に「ユニフォーム」なものへと、嫌な意味で変質してしまったと感じていた。

国葬当日、私はちょうど葬儀を完全にまたぐ時間帯で、池袋の英国国教会系私立大学にて授業をしていたので、ある意味で幸いだった。日本国元首相の国葬にまつわる何のアナウンスもなく、黙祷も花も目撃せず、シュプレヒコールもこれ見よがしなポジショントークも聞こえてくることはなく、弔意を示すなら心の中で個人的に示せば良いという、アカデミズムの政治的中立の中にいられる安らぎを実感した。

そして自宅へ戻り、録画していた各局の国葬特番を見た。実は番組を視聴する前に、広告代理店的な視点から貴重なアドバイスを耳にしていた。

テレビのリモコンを操作する手
写真=iStock.com/Yuzuru Gima
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