やくざから母親の借金を返せと迫られる…
【大谷さん】それで、生活保護受けてたので、月末ぐらいやったかな。「明日か明後日に保護費入るから、とりあえずそれで返しに来るからきょうは帰してくれ」と泣きついて。なんか〔おっちゃんが〕電話とかしてるんですよ、どっか連れていくみたいな。「いやいや、ちょっと」ってなって。それで「返しに来るから、とりあえずきょうは帰してください」って〔私は〕言って、帰してもらって。
すぐ里来て、すぐデメちゃん(こどもの里代表の荘保さん)に言うて、デメちゃんが次の日、保護費入りました。一応、入って持っていったんです。で、デメちゃんが「ついていったる」って言って、ついてきてくれて、向こうも手のひら返して、向こう。弁護士さんの話とか、「借用書どこにあんの?」とか、〔デメちゃんが〕いろいろ言うてくれて。やりとりをデメがしてくれて、「利子どうなってんの?」と、「とりあえず、まずそれ見せて」。
ほんなら向こうも、なんか、「すみません」みたいな、「用意しときます」みたいな。〔……〕「とりあえず元本だけ返そうか」みたいな話になって、毎月返しに行って。そのときは必ずデメちゃんに付いてきてもらって、怖いからっていうことをしつつ。しかも、保護費から返して。で、ここ〔=こどもの里〕でご飯作らしてもらったりとか、ここでご飯食べて。
的確なサポートを得ることでヤングケアラーは生き抜いていける
子どもが失踪した親の借金を返すというのもまた、(とりわけ母親が「あんたにだけは全部話してる」ことになっているがゆえに)ケアすることなのだ。不在の母親をケアするという奇妙なケアがここでは成立している。借金の返済もまた、母親へのケアとして想定される範囲を逸脱する社会的なハンディである。この逸脱した部分でのサポートは、子どもだけで対応できるものではない。これをこどもの里の荘保さんが支えることになる。
「デメちゃんが『ついていったる』って言って」と、居場所であるこどもの里から同行支援するアウトリーチのサポートが行われている。「やくざ」への返済に同伴するという過激な同行支援である。居場所とアウトリーチが組み合わさることが、ヤングケアラーに限らず地域での親子支援では鍵になる。「デメがしてくれて」というサポートと、「デメちゃんに付いてきてもらって」というSOSを出す力とが組み合わさって、大谷さんは生き抜いている。荘保さんは、大谷さんが必要としている部分を補い、力を発揮させる。つまり潜在的に力を持っている大谷さんを補強する。ヤングケアラーは的確なサポートを得ることで本来持っている力を発揮する。