ヤングケアラーが自分だけでは乗り越えることができない困難の中を生き抜くにはどうすればよいか。大阪大学人間科学研究科教授の村上靖彦さんは「SOSを出す力と的確なサポートを得ることが大切だ」という――。

※本稿は、村上靖彦『「ヤングケアラー」とは誰か 家族を“気づかう”子どもたちの孤立』(朝日選書)の一部を再編集したものです。

借金と子供たちを残して母が失踪

【大谷さん】私が18〔高校3年生〕のときに母が出ていって、もう子どもらだけ。18、私を筆頭に、子どもらだけであのワンルームに住むことになるんですけど、18の春に。

〔母は〕借金が結構あったみたいで。〔……〕サラ金にお金借りるようになって、返してはったみたいなんですけど、借りては返し、借りては返ししてはったみたいなんですけど。

18のときに出ていかはって、その何日か後にその借金取りが家に来て、「お母さんはどこ行ったん?」って言って、私、全然何も聞いてなく失踪しはったんで、「知らないです」って言って。ほんなら、「おを母さんは『あんたにだけは全部話してる』って言ってたから、知ってるやろ」って言って、「ちょっと付いてきて」って言って連れていかれて。ほんまに商店街のちょっと路地入った文化住宅みたいな所に連れていかれて、おっちゃんやったんです。

けど、「お母さんどこ行ったん?」って言って、「借金あんねん」って言って、「100万ぐらい」とか言って。「えっ」てなって、「そんなん全然聞いてないし、急におらへんなった」って言って、なんぼ言うても信じてくれへんし。ほんで、多分、午前中やったと思うんですよ。午前中に連れていかれて、3時か4時ぐらいまでずっと帰してくれへんくて。弟らには「里(こどもの里:子どもの遊び場であり緊急時のシェルターとファミリーホームでもある施設)行き」って、「待っといて」って言って。

背後から女性のリュックサックに手をかける黒づくめの男性
写真=iStock.com/howtogoto
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母親の失踪時も母親をケアしなくてはならない

あんたにだけは〔お母さんが〕全部話してる」と、(実際には何も伝えていないのにもかかわらず)大谷さんに「母の代わり」を担わせている。つまり母親が失踪して不在になっているときにも、大谷さんは母へのケアを担っているのだ。