(6)フロー状態に入るコツ

フローと呼ばれる精神の状態があります。時が経つのを忘れてしまうほど物事に集中したり、逆に短い時間だったけれど実感としてはすごく長く感じたり、集中した状態をいいます。

また、スポーツでも「ゾーンに入る」という言い方で表現され、自分の実力を余すことなく出して、なにもかもがうまくいくような状態として知られています。

フローが起きる条件についても研究が進んでおり、次の3条件が満たされているときにフローが発生しやすいとされています。

(1)能力と課題が高いレベルで釣り合っていること
(2)瞬間瞬間の目標が明確であること
(3)その行動に対して即時にフィードバックがあること
畔柳圭佑『記憶はスキル』(クロスメディア・パブリッシング)
畔柳圭佑『記憶はスキル』(クロスメディア・パブリッシング)

なにかを記憶するための学習は、難易度さえ適切に設定されていれば、これらの条件を満たしやすく、フローに入りやすい活動と言えます。私たちが開発している記憶アプリ「Monoxer」の利用者からも、「はじめは嫌だったけれど、やっていると楽しくて自然にやってしまう」といったフィードバックが届くことがあります。

フローを体験しないと、「学習なんて単純作業で、楽しいはずがない」と思いがちですが、実はそうした一見単純な作業こそフローに入る条件に合っているのです。

フローに入ることで集中力が高まり、学習効果が上がります。さらに内面からのモチベーションが湧き上がり、学習や記憶することが楽しくなります。学習に対する内発的な動機づけに大きな効果が期待できるのです。

フロー状態は個人差があるので注意

一方で、フロー状態になるかどうかは個人差が大きいことも知られています。フローに入った経験がない人も一定数います。

これまでお伝えしてきたたように、記憶は長期戦なので、フローにこだわりすぎるのも考えものです。「フローを活用できたらいいな」という程度に考えておくとよいでしょう。

まずは、覚えようとしている内容の難易度が自分の能力と釣り合っているかに着目しましょう。

畔柳 圭佑(くろやなぎ・けいすけ)
モノグサ代表取締役CTO

東京大学理学部情報科学科卒業後、同大大学院情報理工学系研究科にてコンピュータ科学を専攻。修了後はグーグルに入社し、Android、Chrome OSチームに所属。その後、2016年に竹内孝太朗氏(CEO)とモノグサを共同創業。CTOとして記憶のプラットフォーム「Monoxer」の研究開発に従事。