素朴な「問いかけ」のすごい力

「なぜカーナビを作るのですか?」という素朴な問いかけは、今一度、チームが事業に向き合うきっかけを生み出しました。このように、たったひとつの問いかけが、枯渇していた衝動に再び火を点け、形骸化した目的を意味のあるものへとアップデートする契機にもなりうるのです。

アイデアの電球
写真=iStock.com/Olemedia
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これによって「AIを活用したカーナビを作らなければならない」という「とらわれ」も揺さぶられ、結果としてこのチームは、私が会議のファシリテートをするまでもなく「未来の移動の時間」について、活発なディスカッションを始めました。それまではどこか正解を探るような空気があったのが一変し、それぞれが衝動のままに実験的なアイデアを提案するワークショップ型のチームへと、問いかけによって変化していったのです。

チームのポテンシャルが抑制された状態とは、言い換えればチームの可能性に光が当たらなくなってしまっている状態です。問いかけとは、チームの変化の可能性、そしてメンバー一人ひとりの隠れた魅力や才能に光を当て直す「スポットライト」のようなものなのです。

安斎 勇樹(あんざい・ゆうき)
MIMIGURI代表Co-CEO、東京大学大学院情報学環特任助教

1985年生まれ。東京都出身。私立武蔵高校、東京大学工学部卒業、東京大学大学院学際情報学府博士課程修了。博士(学際情報学)。ウェブメディア「CULTIBASE」編集長。企業経営と研究活動を往復しながら、人と組織の創造性を高めるファシリテーションの方法論について探究している。主な著書に『問いのデザイン 創造的対話のファシリテーション』、『問いかけの作法 チームの魅力と才能を引き出す技術』、『リサーチ・ドリブン・イノベーション』、『ワークショップデザイン論』などがある。