リスク資産の最適な組み合わせはひとつしかない

先ほど出てきたトービンの「分離定理」は、リスク資産の最適な組み合わせはひとつしかなく、後はそれと預金等の割合を決めるだけでいいというシンプルなものだということでしたね。では最適な組み合わせとは一体どんなものなのでしょうか。

私は世界の市場全体をそれぞれの時価総額の割合で構成するポートフォリオが最も合理的だと考えます。いわゆるグローバルなパッシブ運用(市場連動型)で、一般的には「世界株式インデックスファンド」といわれるものです。名前は違っても同じような投資信託はいくつもあります。

世界中には成長する市場も停滞や衰退する市場もありますが、それが一体どこなのかは、事前にはわかりません。しかしながら世界の人口が増加し、資本主義の下で人間の経済活動が行われていく限り、全体としては成長していくことは間違いないでしょう。したがって日本だけではなく世界の市場全体を買っておくことが合理的な運用方法だと思うからです。ごく簡単に言えば、どれが上がるかわからないのだから、市場を全部買っちゃえ! ということですね。それが一つの投資信託を購入することでできるような時代なのです。

シンプルな商品のほうがわかりやすく、コストも安い

初心者だからとかベテランだからとかは関係なく、自分がどれだけリスクを取れるのかによってこの投資信託と預金などの割合を決めておけばよいだけで、これはとてもシンプルな方法です。でも往々にして真実はシンプルなものの中にこそあります。特に金融商品の場合は、シンプルな方がコストも安いしわかりやすいのです。

結局のところ、「これは初心者向け商品です」と金融機関が勧めてくるのは、その方が手数料を多く取ることができ、収益が上がるからに他なりません。でもそういう金融機関を「不誠実だ」と言って責めるのは筋違いです。彼らだって株主から収益向上を期待されているわけですから、収益性の高い商品を売るべきなのは当然です。でも私たち投資家にはそれを買うか買わないかを判断する権利があります。これはダメだと思えば買わなければいいだけです。「初心者向け商品」という言葉に踊らされて、論理的にどう考えても適切とは思えないような商品は買うべきではありません。

大江 英樹(おおえ・ひでき)
経済コラムニスト

大手証券会社に定年まで勤務した後、2012年に独立し、オフィス・リベルタスを設立し、代表に。資産運用やライフプランニング、行動経済学などに関する講演・研修・執筆活動などを行っている。近著に『定年前、しなくていい5つのこと』(光文社新書)など。