州知事の先手を打ったアマゾン

一方アマゾンでは、最高裁判所の判断が出る前の5月2日に、中絶を受けるための旅費として社員に4000ドルまでを支給すると表明していた。

アマゾンは2025年までに、約2万5000人が働く第2本社ビルをバージニア州のアーリントンに建設する予定だ。バージニア州は現在、妊娠6カ月までの中絶は合法で、「妊娠を継続すると母体を命の危険にさらす」と複数の医師が判断した場合については妊娠6カ月以降でも認められる。

しかし、最高裁判決の後、バージニア州のグレン・ヤングキン知事は、妊娠15週以降の中絶禁止を求める予定だと表明している。アマゾンの対応は、こうしたバージニア州知事の動きに合わせ、先手を打ったといえる。

アマゾンの拠点がある他の州でも、中絶禁止が進んでいる。テネシー州では、ビル・リー知事が2020年7月に、例外規定を極めて限定した6週以降の中絶禁止に署名している。この措置は連邦裁判所によって一度阻止されたが、ロー対ウェイドの逆転判決を受けて6月28日に発効した。

ウォルトディズニー社も、居住地近くで中絶手術が受けられない場合、中絶が違法ではない州まで移動するための旅費を支払う方針を発表している。ディズニーはカリフォルニア州の企業だが、フロリダ州のディズニーリゾートで約8万人を雇用している。フロリダ州ではすでに、妊娠15週以降の中絶を禁止する州法が7月1日に施行されている。

このほか、銀行大手のJPモルガン、通信大手のAT&Tなどのいくつかの企業も、社員に対し、「合法的な中絶」を含む医療を受けるための旅費を負担すると伝えている。

全米の注目を集めた10歳の少女

6月24日の最高裁判決の後、中絶が禁止されたばかりのオハイオ州からイリノイ州へ移動し、中絶手術を受けた10歳の少女が全米の注目を浴びることとなった。オハイオ州議会はその数時間後に、妊娠6週以降の中絶処置を一切禁止した。強姦や近親相姦で妊娠した場合も、中絶が認められない。

この少女のことは、7月1日に地元紙インディアナポリス・スターによって初めて報じられた。報道によると、少女は強姦され、妊娠6週間と3日の時点でオハイオ州内の医師に相談し、その医師の紹介を受けてインディアナ州で6月30日に中絶手術を受けたという。

「10歳の子だ。10歳で強姦されて、妊娠6週で、すでに衝撃を受けているのに、別の州に移動しなくてはならなかった。自分がその小さい女の子だったらと想像してみるといい」と、7月8日、バイデン大統領は演説の中で、この少女について語っている。

この少女については、バイデン大統領の演説の後、保守派の野党・共和党議員などの間で「でまかせだ」と報道を疑う声があがり、アメリカのメディアで大きな議論になっていた。

アメリカ連邦最高裁判所
写真=iStock.com/Douglas Rissing
アメリカ連邦最高裁判所