国論を二分する中絶の議論

一方、メディアでも民主党対共和党のバトルが繰り広げられている。

フォックス・ニュースの番組に出演したサウスダコタ州のクリスティ・ノーム知事は、中絶を擁護するバイデン政権を批判した。中絶反対派であるノーム知事は、「私は、家族などの支援がない孤立した妊婦や経済的に困窮した妊婦がいることも十分認識している」と言い、教会やNPOと連携して妊婦をサポートしたり、養子縁組などの支援もすると述べる。

確かにアメリカでは、養子を受け入れる家庭が多い。生んでも育てることができない場合、そういった選択肢も日本より、はるかに多い。

しかし、今回の最高裁の判決で、アメリカ国内、とりわけ医療の現場が相当混乱していることが、ここ1カ月で明らかとなっている。人工中絶の是非を問い、女性が生み育てる責任を追及することにより、逆に危険にさらされる命もある。母体保護という観点も見逃してはならない。

アメリカは、11月に中間選挙を控えている。中絶の問題は、民主党と共和党という政治対立だけでなく、アメリカという国の分断をさらに深刻化させかねない。

大門 小百合(だいもん・さゆり)
ジャーナリスト、元ジャパンタイムズ執行役員・論説委員

上智大学外国語学部卒業後、1991年ジャパンタイムズ入社。政治、経済担当の記者を経て、2006年より報道部長。2013年より執行役員。同10月には同社117年の歴史で女性として初めての編集最高責任者となる。2000年、ニーマン特別研究員として米・ハーバード大学でジャーナリズム、アメリカ政治を研究。2005年、キングファイサル研究所研究員としてサウジアラビアのリヤドに滞在し、現地の女性たちについて取材、研究する。著書に『The Japan Times報道デスク発グローバル社会を生きる女性のための情報力』(ジャパンタイムズ)、国際情勢解説者である田中宇との共著『ハーバード大学で語られる世界戦略』(光文社)など。