世の中には理不尽な校則が存在する。一方で、校則を緩めようとすると、保護者や地域からお叱りを受けるケースもあるという。教育社会学者・内田良さんが行った中学校教師の覆面座談会から見えてきた校則改革の本質とは――。

※本稿は、河﨑仁志、斉藤ひでみ、内田良『校則改革』(東洋館出版社)の一部を再編集したものです。

【中学校教師、覆面座談会出席者】

Mさん 20代、関東地方で中学校教員、3年目、校務分掌では定期テストや成績を担当、学生の頃から部活動の研究をしている。

こころさん 30代、近畿地方。総合的な学習や委員会指導、教科主任を担当。働き方改革、部活動問題に関心がある。

山本さん 40代、西日本、生徒指導部。実際に校則を改革した学校に所属。

司会者 内田良・教育社会学者

校則について、校内で議論になることはほとんどない

【M】こんにちの校則の報道については、「髪の毛をストレートにしなさい」「黒髪にしなさい」などのニュースは、正直「ぶっとびすぎている」と感じています。そこまで生徒を服装で縛るような校則はうちにはないのです。そうした報道があった翌日とかの、職員室の空気を思い出しても、話題に挙がることはありますが、そうしたものの先にある「校則に内在するそもそもの課題」を自分事として受け止められていないという現状です。

学校の階段を上る二人の女子中学生
写真=iStock.com/D76MasahiroIKEDA
※写真はイメージです

【内田】なるほど、他人事みたいに感じられている先生方もいらっしゃるのですね。

【M】「髪の毛の色の指定」に近い校則はうちにもあるのです。肌着の色、ヘアゴムの色の指定があります。これも根は同じ問題だと感じるのですけれども、改革されていらっしゃる方々と比べると、かなり温度差があるように感じています。

むしろ、自校の校則を考えるときに、「あそこまではないから、あれに比べたら、自校はまし」的な雰囲気もありますね。

【内田】それは校内で議論がおきていないということでしょうか?

【M】ニュースそのものについての議論はほぼないです。世間話のレベルで少しあるくらいですね。年に一回、校則を変えることなどの話題がある会議があるのですが、そこでも議論という議論はないです。

報道される校則がセンセーショナルすぎることも

【内田】報道されているものは確かにセンセーショナルすぎていたり、それがすでにきれいに解決したりしているケースがほとんどですよね。報道の視点によって、逆に見えなくなっている校則の現状というのがありそうです。

【こころ】M先生と同じで、ニュースを見ていても「えっ! そんなおかしな、変な校則はうちにはないな」と、次の日学校で話題に上ったとしても議論にはならないことが多いですね。

【内田】学校での校則に関わる動きや議論はあまりないのでしょうか。

【こころ】本校ではそもそも、生徒総会でしか、校則変更に至るプロセスがありません。「教師のための校則」ではないことから、生徒から出てこない限り議論する機会がないというかたちです。また、報道に挙がるようなダメな校則と比べると、比較的自由なんじゃないかな、と感じています。髪の毛の結び方について指定はありません。あえて厳しいものでいうなら、「防寒着を着るなら下にブレザーを必ず着る」。「通学時のセーター通学ダメ」。これらの校則は、私はナンセンスだと思っています。

でもそれ以外は「髪型は奇抜なものだけNG」。「鞄も指定はない」。お話を聞いている限り、比較的自由かなと思います。