人はもっと自分の強みにコンシャスでいい
「『デジタルトランスフォーメーションのための会社を立ち上げる。君にその社長を任せたい』。そんな驚きのオファーをいただいたのが、2020年5月のことでした。新会社設立の発表は、忘れもしない7月1日。時はコロナ禍、すべてはオンラインです。私は数千人の社員を前に……ではなく、PCの画面に向かって、社長就任の挨拶をしたのでした。文字どおり前が見えない状況での立ち上げに、ワクワクと不安が入り交じっていたことをよく覚えています」
当時、井上裕美さんは39歳。新時代のリーダーを象徴する存在と大いに話題を呼んだが、相当なプレッシャーがあったことは想像に難くない。
「四半期ごとに全社向けのオンライン会議を行うのですが、そこでのアンケートを丹念に読み込むことで、漠とした不安感を払拭してきました。『もっとゆっくり話して』というコメントがあり、映像をリプレイすると確かに私は早口。これでは内容が頭に入ってこないと自覚できます。細かな口癖から事業内容の改善点まで、すべての声は宝の山。目をとおすことは発見の連続です。もともとIBMには『フィードバック イズ ギフト』という文化が根付いています。ポジティブな声は強みとして、ネガティブな意見はアンコンシャスをコンシャスに変えてくれる気づきとして感謝して受け入れる。それが成長につながると考えているのです」