関係者と心を通わせるため、賢く言葉を選びたい

建築家という職業を想像すると、どんな姿が思い浮かぶでしょうか。スケッチブックにデザイン画を起こしたり、PCを前に図面を引いたり……そんな像が浮かぶかもしれません。でもそれらは実務のごく一部。実際は、クライアントから発注された案件に対し、構造、エネルギー、照明、ランドスケープなど、さまざまな専門家と手を携え、何度も議論を重ね、建築物へと昇華させていく。そんな総合プロデューサーのような役割を果たしています。

建築家 松岡恭子さん
建築家 松岡恭子さん

そこでいつも心を砕いているのが「伝える」ことです。それぞれ専門分野をもつプロ中のプロたちと、ゴールに向かってどうコラボレートしていくのか。お互いの心の関係が形になっていく仕事ならではです。

まず心がけているのが、「クリシェ(常套句)を使わないこと」。仕事はもちろん結婚式のスピーチや乾杯の挨拶も同様で、限られた時間のなかで使う言葉は、自分が本当に感じたものだけを使います。これは、ニューヨークや台北などずっと長く海外にいて、ディスコミュニケーションの不自由さと苦労が身に染みているからかもしれません。心からの言葉を紡ぐことで、人と人との距離はグッと近づく。そのことを身をもって経験してきたからなのです。