「リビングウィル」を準備しておく

【奥田】私はまだ50代ですが、交通事故などの外傷で脳死に近い状態になることもあると考え「回復の見込みがなかったり、大きな障害が残ることがわかったりしている場合は、絶対に延命治療はしないで!」と強く伝えています。

私の夫は医療者なので私の意志を尊重してくれる信頼がありますけど、念のために文章にして残そうと考えています。読者の方も、もし延命治療を受けたくないと決めたのであれば、家族や親族に伝えるとともに、事前に文章に残しておくことをお勧めします。

【中村】「リビングウィル」ってやつやね。

【奥田】はい、終末期を迎えたときの医療の選択について、事前に意思表示しておく文書ですね。「日本尊厳死協会」のリビングウィルが最も有名ですが、その他にも「尊厳死宣言公正証書」というサービスもあるそうです。これらは有料ですが、自分で自由に書いたものでも良いと思います。

リビングウィルは、書いたら必ず家族に内容と置き場所を知らせておき、いざというときに医師に提示しておけるようにしておく必要があります。引き出しの奥にしまっておくだけでは、効力は発揮しませんから。

いつ倒れても自然にあの世に逝ける

【中村】私は文書には残してないけど、息子たちにはしっかり伝えて同意をもらっているから安心してる。とにかく、まずは自分の死に際をどうしたいか自分でよく考えてみることが大切やね。

それで延命治療を望まないと決心したんやったら、元気なうちから家族・親族にしっかり伝えて同意を得ておくことに限るわな。私はずっと前から、しつこく、しつこく家族に伝え続けているから、いつ倒れても、自然にあの世に逝けるって安心してるけどね。

中村 恒子(なかむら・つねこ)
精神科医

1929年生まれ。1945年6月、終戦の2か月前に医師になるために広島県尾道市から一人で大阪へ、混乱の時代に精神科医となる。二人の子どもの子育てを並行しながら勤務医として働き、2017年7月(88歳)まで、週6日フルタイムで外来・病棟診療を続けてきた(8月から週4日のフルタイム勤務に)。「いつお迎えが来ても悔いなし」の心境にて、生涯現役医師を続けている。

奥田 弘美(おくだ・ひろみ)
精神科医 産業医

1967年生まれ。約20年前に中村恒子先生に出会ったことをきっかけに、内科医から精神科医に転向。現在は都内にて診療および産業医として日々働く人の心身のケアに取り組んでいる。執筆活動も精力的に行い『一分間どこでもマインドフルネス』(日本医療情報マネジメントセンター)など著書多数。今回、念願であった恩師・中村氏の金言と生きざまを『心に折り合いをつけて うまいことやる習慣』(すばる舎)にまとめて出版した。