「多くの学びに恵まれた色濃い歳月」

しかし、昨年12月1日に発表された「ご成年に当たってのご感想」では、次のように振り返っておられた。

「これまでの日々を振り返ってみますと、いろいろな出来事が思い起こされ、多くの学びに恵まれた色濃い歳月であったことを実感いたします」

20歳になったばかりの若い女性が、「これまでの日々」を顧みて「“色濃い”歳月」などと表現することはまれではないだろうか。「多くの学びに恵まれた」とまで述べておられる。驚くほどの心の強さと謙虚さを兼ね備え、苦しみを成長の糧へと転化できる生命力をお持ちであることが拝察できた。先日のご会見は、その延長線上での“輝き”だった。

その“輝き”の源泉は、ご両親のあふれるような愛情だろう。「可愛いがられ 抱きしめられた 子どもは 世界中の愛情を 感じとることを おぼえる」――。まさにそのようにして成長されたお姿が、あのご会見で国民の前に示されたのだった。

称号と名前に込められた“願い”

天皇陛下の敬宮殿下へのご養育方針が最も端的に表れているのは、他でもない「敬宮」というご称号と「愛子」というお名前だ。

ちなみに、「秋篠宮」とか「常陸宮」という独立した世帯を営む皇族男子に授けられる“宮号みやごう”とは異なる「敬宮」のような“ご称号”は、直系の皇族にだけ与えられる。したがって、秋篠宮家など各宮家のお子様方は男女の区別なく、お持ちでない。

敬宮殿下のご称号とお名前の由来については、天皇陛下ご自身が、殿下ご誕生の翌年(平成14年〔2002年〕)の記者会見で、次のように説明されていた。

「子供は自分の名前を選ぶことはできませんし、また、名前はその人が一生ともにするもので、私たち2人(天皇・皇后両陛下)も、真剣に(漢文学や国文学の専門家が提出した)それらの候補の中から選びました。選考に当たっては、皇室としての伝統を踏まえながら、字の意味や声に出した響きが良く、親しみやすい名前が良いというふうに考えました。…候補の中では、孟子もうしの言葉が内容としてもとても良いように思いました。…人を敬い、また人を愛するということは、非常に大切なことではないかと思います。そしてこの子供(敬宮殿下)にも、この孟子の言葉にあるように、人を敬い、人からも敬われ、人を愛し、人からも愛される、そのように育ってほしいという私たちの願いが、この名前には込められています」

出典の『孟子』(離婁章句下りろうしょうくのげ)に次のような一節がある。

「人を愛する者は、人つねこれを愛し、人を敬する者は、人恒に之を敬す」

天皇・皇后両陛下のお側で、長年にわたってご薫陶を受けてこられた敬宮殿下は、まさに両陛下が願われたような、国民からの敬愛をご一身に受けられ、国民に希望を与えられる成年皇族に成長された。そのご将来をいつまでも宙ぶらりんなまま放置する残酷さに、そろそろ人々は気づく必要がある。

高森 明勅(たかもり・あきのり)
神道学者、皇室研究者

1957年、岡山県生まれ。国学院大学文学部卒、同大学院博士課程単位取得。皇位継承儀礼の研究から出発し、日本史全体に関心を持ち現代の問題にも発言。『皇室典範に関する有識者会議』のヒアリングに応じる。拓殖大学客員教授などを歴任。現在、日本文化総合研究所代表。神道宗教学会理事。国学院大学講師。著書に『「女性天皇」の成立』『天皇「生前退位」の真実』『日本の10大天皇』『歴代天皇辞典』など。ホームページ「明快! 高森型録