税理士、金融機関、不動産業者の全員が「グル」

相続税を安くすることだけに目が眩むと、肝心の不動産に対するリスクチェックが疎かになる。相続において、土地は路線価評価、建物は固定資産税評価で評価される。それぞれの評価額と時価の差額分が節税になる。

さらに投資を借入金で賄うと、借入元本を相続財産評価額から控除できるので、さらに節税ができる。現金で持っていれば、額面通りに評価されるものが、不動産に形を変えれば、同じ1億円の財産でも、不動産は簿価の数分の1にまで圧縮できてしまう。

不動産は当然運用することで運用益、売却することで売却益も期待できるので、これらをすべて組み合わせれば、大きな収益を得られるというのが不動産を使った相続税対策の醍醐味だ。

こうしたバラ色の節税策は、これを仕組んで儲けようとする者によって広まっていく。仕掛けるのは税理士であり、金融機関であり、不動産業者である。悪い表現をするならば、彼らは全員が「グル」である。

会議室で会うビジネス
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不動産業者は自らが建設したアパートやマンションの売却、あるいは仲介、売った後の賃貸運用の手伝いによる手数料、など儲けの蛇口はたくさんある。

金融機関は投資資金の貸し付けができる。土地建物を担保に入れられるし、アパートやマンション自体が収益を上げてくれるので、安全な貸付で利息収入が得られる。そして税理士は、税理士としての顧問報酬に加えて、業者などからのキックバックを手にすることができる。

節税欲望が不動産投資を歪めている

この3者はこぞって相続税対策に不動産は極めて有効であることをニコニコ顔で言うであろう。客が投資してくれない限り、些少の報酬をもらう税理士を除いてはみな何の儲けにもならないからだ。だが彼らは客が、投資した後のことにはあまり関心がない。

不動産業者とて運用のお付き合いはさほど儲かるビジネスではない、何といっても売却すること、仲介することで大きな収益が得られるのでワンショットで大きな利益を得れば、あとは野となれ山となれ、だ。

金融機関も本来は、後に不良債権化することは避けたいはずだが、支店の担当者はどんどん交替する。10年から15年の比較的長期のローンを組むし、当面は建物も新しく、競合もしにくいだろうからリスクは少ない。そのうち転勤で「さようなら」である。

税理士は相続税の節税という大義は果たしてしまうので、その後のことについては、正直どうでもよいし、何かあったら「はいはい、どうしました?」と素知らぬふりで応じればよい。

アパートマーケットの、その後のことなんて自分の専門領域ではないので「知らぬ、存ぜぬ」で通せるからだ。

つまり、誰も主人公であるはずの客の立場や人生を考えてはいないのである。客は節税が目的化、そして客をとりまく専門家と称する面々は自分のビジネスが儲かることを一義に一生懸命、客に寄り添っているフリをしている、これが節税目的不動産投資の現場の実態だ。