ロシア国債のデフォルトの可能性は5年以内に81%

次はロシア側の視点も見てみましょう。

ロシアのウクライナ侵攻を受け、米欧日などの先進国はロシアへの経済制裁を決定。特に、日米欧など主要国が「国際銀行間通信協会(SWIFT)」からロシアの銀行を排除したことは、ロシアの金融市場や経済に大きなダメージを与えました。また、先進国側は、ロシアの出方次第では、追加でさらに経済制裁を加える余地を残しています。

ロシア経済や財政の状況、経済制裁の効き目を測るうえで、わかりやすい指標が、ロシア国債のクレジットデフォルトスワップ(CDS)です。この数字は、ロシア国債が債務不履行(デフォルト)に陥るリスクについて表しています。

ICEデータ・サービシズによると、ロシア国債のCDSは1年以内のデフォルト確率を71%、5年以内では81%と示唆しています。ロシア国債の債務不履行リスクを示すCDSの保証料率は、クリミア併合後の6%台を大きく上回り、足元ではデフォルト確率が80%程度まで上昇していました。

直近では、ロシア政府が16日に期限が到来したドル建ての国債の利払いをドルによって実施したことが明らかになり、デフォルト懸念がやや後退。CDSもやや下がりました。もちろん、ロシア国債のCDS以外にも、金融環境の悪化、消費者や企業の信頼低下、不確実性の高まりなどさまざまな影響がでています。

ルーブルは年初から対ドルで50%近く下落。株式市場の流動性の問題から、S&P、ダウジョーンズ、MSCI、FTSEラッセルは主要株価指数からロシア株を除外すると発表しました。ロシアの企業や経済はもちろん、ロシアとつながりの深い企業や地域にもダメージが及ぶと予想されます。米国企業など先進国の企業はロシアからの撤退やロシアでの事業停止を次々と決定しています。

ただ、もしロシア国債がデフォルトしても、世界の金融市場におけるロシアの存在感は大きくなく、米国などに直接的に大きな影響が及ぶことは少ないと思います。米国にとってロシア経済の存在は小さく、例えば、ロシア向け輸出は全体の0.3%、輸入は0.7%を占めるにすぎません。

ロシア国債や株式などを保有する投資家や企業には一定程度の損失が生じ、それが経営問題へと発展する可能性は考えられます。ただ、それだけで、リーマンショック以降、ストレステストなどに取り組んできた世界の金融市場が危機的状況に陥るとは考えづらいものがあります。

ただ、元々できるだけ経済の成長を阻害しないよう、インフレを退治しなくてはいけなかったFRBは、ロシアとウクライナの問題が引き起こした不確実性やエネルギーなどのインフレによって、より難しい舵取りを強いられることになりました。

ロシア国債のデフォルトの影響は新興国に波及する

急な利上げや大きな利上げは株式市場や経済にとって悪影響を及ぼす可能性があります。しかし、インフレが長引くと消費の鈍化、経済成長の鈍化へとつながります。

2月24日以降、20日近くが経過し株価もある程度下がって、現時点での地政学リスクをだいぶ織り込みつつあるように思います。米国株投資家にとってはウクライナの問題と同じかそれ以上にFRBやインフレへの警戒が必要となります。

ロシアに話を戻すと、ロシアがもたらすインフレやロシア国債のデフォルトが、経常赤字が続いている脆弱ぜいじゃくな新興国に波及し、混乱が広がる可能性があります。また、高いインフレを潰すために、各国の中央銀行がより早く大きな利上げをする必要に迫られ、それが景気後退を招くのではとの懸念もあります。

過度な心配は禁物ですが、油断せず、状況を見守ることが大切です。また、紛争や原油価格の上昇によって、得する業界や国もあることも忘れてはいけません。

投資家は不確実性を受け入れ視野を広くすることが大切

ウクライナのゼレンスキー大統領は、NATOの加盟を断念するなど妥協の姿勢も見せ、停戦に向けた交渉が進んでいます。具体的な内容は不明ですが、プーチン氏は11日、ベラルーシのルカシェンコ大統領との会談の際、停戦交渉に関し「幾つかの前向きな進展があった」と発言しています。

思いのほか、早く解決する可能性もありますし、泥沼化するかもしれません。ロシアの短期間で制圧できるという当初の見通しが外れたように、当事者同士でもどう転ぶかわからないのが現状だと思います。

さまざまな人が、それぞれの立場から、根拠のありそうなことから、陰謀論めいたものまで、いろいろな意見を述べており、さまざまな情報がネットやメディアに溢れています。誰が本当のことを言っていて、誰の予測が当たっていたかは、結局未来になってからでないとわかりません。

不確実性が高くボタンの掛け違い一つでどうとでもなる展開です。

未来がわかるという方は一つのシナリオに賭けるのが合理的でしょう。しかし、未来がわからないという方であれば、しっかりとわからないことがあると認め、そのうえで不確実性にどう対応していくか考えていくことが大切だと思います。

すでに、プーチン氏がジュネーブ条約をやぶり原発を攻撃したように、ロシアがより国際法や人道を無視した行為に及ぶリスクは一定程度あります。そうなれば市場はより一層混乱するでしょう。

そういったシナリオは排除できないものの、ロシアの侵攻が始まってからの約20日間で、株価や原油価格は、ある程度現在のあまり良いとは言えない状況を織り込みつつあるようにも感じます。実際に株価は下げ幅の鈍化や反発する場面もありました。

現在の状況が短期間で解決すれば当然市場の懸念は晴れますし、長期的に泥沼化しても、余程のことがない限りは、FOMCの利上げや企業の業績など、時間の経過とともに発表される違う材料を市場は織り込んでいくと思います。

地政学リスクの売りは比較的短期間で終息する

過去60年間の地政学的イベントを検証してみると、株式市場は最初のニュースにネガティブに反応することがあるものの、地政学的な売りは通常短期間で終わり、その後の12カ月間のリターンは長期平均リターンとほぼ同じであったということがバンガードの調査でわかっています。

また、原油価格の高騰が世界の成長に打撃を与えたのはこれが初めてではありません。1973〜74年、1978年、2007〜2008年の原油価格の倍増は世界経済の破綻を予感させました。しかし、それらを乗り越え、世界経済と市場は今日まで成長を続けてきました。また、今回は1998年のロシア通貨危機とは全く異なる形ではありますが、1998年にロシアがデフォルトして以降、短期的な混乱はあったものの、その後約20年で何度世界や米国の株式市場が最高値を更新してきたでしょうか。