お金の欲求が強いからこそ、他人の成功を妬む

日本社会では、テクノロジー分野に限らず経済的な成功体験を披露することは、場合によっては大きな批判を浴びます。出る杭は打たれるということわざからも分かるように、日本では成功者は基本的に妬まれますから、自身の成功体験を積極的に他人に語りたがりません。このため成功のロールモデルが共有しにくく、これがビジネスチャンスを狭めています。しかしながら、成功者が妬まれ、足を引っ張られるということは、実はお金に対する欲求が強いことの裏返しでもあります。

投資信託などのファンドを運用するフィデリティ投信が、英国、ドイツ、カナダ、中国、日本などを対象に行った調査によると、「経済的に安定していないと幸せではない」と回答した日本人の割合は73%と、主要国では断トツでした。英国は45%、ドイツも45%、カナダは44%、中国は38%ですから、日本の数字は突出しています(図表3)。

【図表3】経済的に安定していないと幸せではないと考える人の割合
加谷珪一『国民の底意地の悪さが、日本経済低迷の元凶』(幻冬舎新書)より

所得水準と幸福感について尋ねた別の調査でも、日本は所得が高い人と低い人の幸福感のギャップが大きいという結果が得られています。日本はお金についてオープンに語ることを嫌う風潮がありますが、この調査結果によると本音ではお金がないと幸せになれないと感じていることになります。そして、お金がないと幸福ではないと考える傾向が強いからこそ、お金を持っている人を妬み、足を引っ張っている可能性が高いとの推測が成り立ちます。

ちなみにこの調査では、「自分の人生が『お金にコントロールされている』のか」について問う項目がありますが、日本人の中で「自分がお金をコントロールしている」と回答した人の比率は64%しかありませんでした。この質問に対しては、英国が69%、ドイツが79%、カナダが72%、中国が75%という数字でしたから、日本人はもっともお金に振り回されていると感じていることになります。

日本人がお金に振り回されるのは人生の選択肢が少ないから

日本は決して貧しい国ではありませんが、なぜお金に振り回されると感じるのでしょうか。このアンケートではそこまでは解明できていませんが、本書を読んでいただいた方はすでにピンと来ているのではないでしょうか。この連載の第1回(「幸福度ランキング世界56位」日本の若者が幸せになれない明確な理由)で紹介した幸福度ランキングとの関連性です。

国連の幸福度ランキングでは、世界における日本の自由度と寛容さのランキングが著しく低いという結果でしたが、この調査でも同じことが言えると思います。日本人は人生における選択肢が少なく、それがお金に振り回される生活の原因にもなっています。そして、一連の社会環境が寛容さを失わせ、他人の足を引っ張るという行為を助長しているのかもしれません。近年、日本において急激に高まっている極端な自己責任論も似たような文脈で捉えることができそうです。

加谷 珪一(かや・けいいち)
経済評論家

1969年宮城県生まれ。東北大学工学部卒業後、日経BP社に記者として入社。野村証券グループの投資ファンド運用会社に転じ、企業評価や投資業務を担当。その後独立。中央省庁や政府系金融機関などに対するコンサルティング業務に従事。現在は経済、金融、ビジネス、ITなど多方面の分野で執筆活動を行うほか、テレビやラジオで解説者やコメンテーターを務める。