声高な批判がビジネスの芽を摘んでしまう

一連の実験結果は身近な感覚としてよく理解できるのではないでしょうか。

日本では何か新しい技術やビジネスが誕生するたびに声高な批判が寄せられ、スムーズに事業を展開できないことがほとんどです。その間に他国が一気にノウハウを蓄積してしまい、結局は他国にお金を払ってその技術やサービスを利用しているケースはザラにあります。無人機(ドローン)の業界はまさにその典型といってよいでしょう。

ドローンの市場は中国と米国の独壇場となっており、日本メーカーは手も足も出ません。日本政府が保有するドローンを精査したところ、ほとんどが中国製だったという安全保障上、笑えない話もあります。実際、中国製のドローンは低価格で、しかも日本製より圧倒的に高性能ですから、安全保障上のリスクがあっても、各省庁は中国製を採用していたというのが現実なのです。

しかしドローンが登場してきた当初は、この分野で圧倒的なシェアを握るのは日本企業だと考えられてきました。しかし日本企業は既存の技術にあぐらをかき、積極的なソフトウェア開発を行いませんでした。

ドローンのような製品は、実際に飛ばして改良を重ねることが大事ですが、日本国内では「危険だ」「あんなものはオモチャだ」といった感情的な反発が強く、実際に空を飛ばす実験は事実上、禁止された状態が長く続きました。この間に中国企業はあっという間に実力を蓄え、今では圧倒的なナンバーワンとなっています。

日本人はテクノロジーを信じる割合も最低レベル

新しい技術に対して声高な批判が寄せられる意外な理由として考えられるのは、テクノロジーがもたらす利益です。一般的に新しいテクノロジーが普及すると、その技術を持っている人は多くの利益を得られます。つまり新しいテクノロジーが普及するたびに、それを得意とする誰かが大きな利益を得ているわけです。

日本人が他人の足を引っ張る傾向が顕著なのだとすると、新しいテクノロジーの普及で自身の生活が便利になったとしても、それ以上に儲かる人がいるのは許せないという感情が働く可能性が否定できません。結果として、新しいものは普及しない方がよいと考える人が一定数出てきても不思議ではないでしょう。

加谷珪一『国民の底意地の悪さが、日本経済低迷の元凶』(幻冬舎新書)
加谷珪一『国民の底意地の悪さが、日本経済低迷の元凶』(幻冬舎新書)

米国の調査会社エデルマンが行った信頼度調査によると、日本人の中でテクノロジーを信頼する人の割合は66%となっており、26カ国中最低レベルでした。

ランキングの上位には中国やインドネシアなど新興国が目立ちます。新興国は経済成長が著しくテクノロジーの恩恵を感じやすい状況にあります。一方、米国やフランス、ドイツ、英国といった先進国は下位グループに入っていますから、日本の順位が相対的に低いことは特に問題ではありません。

しかし日本は多くの人が自国のことを技術大国であると誇りに感じており、米国や英国に対して、もの作りを軽視し、消費にしか興味がない国だとして批判する風潮も根強く残っています。

こうした国であるにもかかわらず、テクノロジーに対する信頼度が最下位というのは不思議な感じがしますが、新しいテクノロジー=他人の利益と考えると、辻褄が合うのではないでしょうか。