王族も人間、ストレスも苦しみもある
眉をひそめるようなことばかりではない。2016年、現国王夫妻は、第3子のエマニュエル王子にディスレクシア(日本語では難読症とも)という学習障害があることを「タブーなんかではない」と公言し、子供の最善の利益のためにと専門の教育機関に転校させた。スウェーデンやオランダの王室では、うつや摂食障害を公にして、「私たちも普通の人間。国民同様、ストレスも苦しみもあるのだ」と等身大で訴えているという。
どんなに現人神であってほしいと願っても、どんなに宮内庁ががんじがらめに守り隠しても、病気や障害や事故は皇族メンバーにも起こりうる。
タブーを作らず国民とともに歩んでこそ「国民の象徴」。ベルギー王室は試行錯誤しながら国民のための王家のあり方をアップデートし続けているように見える。
安定的な皇位継承を議論する、日本政府の有識者会議が2021年12月に提出した最終報告書では、女系天皇にも女性天皇にも触れず、またもや根本的な解決策の議論を避けた。現実を直視して素直に制度改革を試みないなら、日本の皇室が途絶えてしまう日を少しだけ先送りするだけ。天皇が国民の象徴であるなら、運命共同体の国民もいつか消滅してしまうのだろうか。
ベルギー憲法によれば、王は「国の王」ではなく、「国民の王」、王室は国民を象徴する。言語や人種や性的志向など、王家とともに多様性を是とするこの国の民だが、「初の女王誕生」だけは心を一つにしてその日を待ちわびている。
EU主要機関のある欧州の小国ベルギー在住約30年。上智大学卒業後、米国とベルギーの大学院で経営学修士号取得。コンサルタント、コーディネーター業のかたわら、共同通信47NEWS、ハフポスト、婦人公論などのほか、環境、一般消費財、小売業などの業界紙にEU、ベルギー事情を執筆。海外在住ライターによる共同メディアSpeakUp Overseasも主宰する。注目テーマは、社会正義、人権、医療倫理、LGBT、環境危機、再エネ、脱プラなど。