ハードな感情労働

土屋では社内に「ハラスメント・虐待防止委員会」を設置している。ヘルパーさんからの相談で最も多いのは、介護現場でのハラスメントだ。利用者や利用者の家族からパワハラ、セクハラなどを受ける可能性がある。現場のハラスメントが原因で辞めていく人たちもいる。

「重度障害者介護は“ハードな感情労働”です。ヘルパーさんが現場で対応するだけでは防げません。だから会社が、聞き取り調査を実施するなど予防策を講じないといけない。当社にとっても大きな課題です」(高浜社長)

土屋では、コーディネータと呼ばれる正社員が登録ヘルパーさんをサポートするしくみがある。これまでの実績によって社内には多くのノウハウが蓄積されている。

売り上げや利益の目標を一切提示しない経営

土屋は新しい事業領域にもチャレンジしている。重度訪問介護のスタッフを養成する「土屋ケアカレッジ」、シンクタンク部門の「土屋総研」、出版部門の「土屋パブリッシング」などだ。21年11月には高齢者向けグループホームを運営する会社が子会社となり、22年1月には障害者が農業に携わる農福連携の会社が子会社となった。

「土屋では売り上げや利益の目標を一切提示していません。従業員の意識は、以前とは違っています。ミッション、ビジョン、バリューのMVVに基づく経営、MVVで牽引する組織が実現できたように思います」

経済性重視への疑問が創業のきっかけとなった土屋。MVVに基づく経営は、この1年半に見られた成長をもたらしている。高浜さんの哲学がソーシャルビジネスでどう実現されていくか、注目していきたい。

伊田 欣司(いだ・きんじ)
ライター