怪文書でチャンスを逃すケースはほかにも
ファックスで送りつけられた文書のせいでチャンスを逃したという話は、元女子アナのPさんからも聞いた。以前勤めていたテレビ局で情報番組の司会の話がきて喜んでいたのだが、その話がつぶれたので、上司に理由を尋ねた。すると、Pさんの不倫を告発するファックスがテレビ局に送られてきたことが判明した。身に覚えがないPさんは、Oさんと同様に釈明しようとした。
しかし、上司からは「たとえ真偽不明でも不倫の噂が流れた女子アナを使うことをスポンサーは嫌がる。上層部はスポンサーが離れることを何よりも恐れているので、仕方ない」という答えが返ってきた。
その後、先輩の女子アナが司会の座を射止めたので、ファックスを送ったのはこの先輩ではないかと、Pさんはテレビ局を退職した今でも疑っている。しかし、証拠がない以上、どうすることもできない。
ファックスは格好のツール
OさんもPさんも、事実無根のネガティブ情報によって大きなチャンスを逃している。それだけ、マニピュレーターが邪魔者を排除するために送りつける文書に破壊力があるからだろう。
だが、それだけではない。いずれの場合も、事実関係を少し調べれば嘘だということは容易にわかりそうなのに、上司がそれをやっていない。いや、それどころか、文書に記載された作り話を真に受けている。それだけ、誹謗中傷に惑わされやすい人が多いということであり、そこにマニピュレーターは巧妙につけ込む。
なお、デジタル化が進んだ現在でも、邪魔者を蹴落とすための怪文書がファックスで送信されることは少なくないようだ。おそらく足がつきにくいからだろう。マニピュレーターは、自分がやったことを知られるのを何よりも嫌がる。だからこそ、コンビニから送信すれば、誰が送ったのかを特定するのが難しいファックスは、マニピュレーターにとって格好のツールなのである。
精神科医。大阪大学医学部卒業。京都大学大学院人間・環境学研究科博士課程修了。人間・環境学博士(京都大学)。フランス政府給費留学生として、パリ第8大学精神分析学部で精神分析を学ぶ。著書に『他人を攻撃せずにはいられない人』(PHP新書)など。