その頃からLさんは夜眠れなくなり、頭痛、めまい、腹痛、吐き気などの身体症状に悩まされるようになったので、内科を受診して検査を受けた。だが、とくに異常はなく、紹介されて私の外来を受診した。不安や抑うつ気分などの精神症状も認められたので、「適応障害」の診断書を出して休職することになった。

自己保身のための嘘八百

休職中のLさんに、さらにショックな出来事が追い打ちをかけた。Nさんから宅配便が送られてきて、その中にはLさんが大学時代からNさんの誕生日やクリスマスなどにプレゼントした品々が詰め込まれていた。おまけに、「出会い系サイトで知り合った男と不倫して、その妻に会社に怒鳴り込まれるような女とはつき合えない」という手紙も同封されていたのだ。

Lさんはびっくり仰天した。出会い系サイトを利用したことも、不倫したこともなかったからだ。しかし、Nさんの手紙から察すると、そういう噂が社内で流れているようだったので、同期の一人にメールで事情を尋ねた。すると、驚愕きょうがくの事実が判明した。Lさんと出会い系サイトで知り合って不倫していた男性の妻が、男性の携帯を盗み見て不倫の事実を知り、会社に怒鳴り込んできたが、秘書のMさんが「Lさんはもう退職しましたから、当社とは一切関係ありません」と上手に説明して追い返したと、Mさん自身が吹聴しているというのだ。しかも、「これは秘密だけどね」という前置きをつけて。

耳を覆う女性
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信用は地に落とされた

またしてもMさんの嘘で窮地に立たされたLさんは、頭にカーッと血が上った。すぐにMさんに電話して「なぜ嘘八百の話を言いふらすんですか」と問い詰めてやろうかと思ったほどだ。だが、そんなことをすれば、逆に何を言いふらされるか、わかったものではない。第一、無断欠勤の噂を社内に広められたせいで、Lさんの信用は地に落ちており、たとえMさんの嘘を告発しても、信じてもらえるとは到底思えなかった。

そこで、なぜMさんがLさんを追い詰めるような嘘を繰り返すのか、じっくり考えてみた。Mさんとは、上司からの指示を伝えられたり、上司に提出する書類を渡したりするときに二言三言話すくらいで、それほど深い関わりがあるわけではなかった。もちろん、もめたことも一度もなかった。だが、思い当たるふしが一つだけあった。