「妻の尻に敷かれる」は意外と良い戦略

このような家庭の特徴を考えると、思いつくのは「妻が家庭の主導権を握り、尊重される夫婦関係」にある場合です。これは自分の意見や意思決定が尊重される関係だとストレスが少なく、けんかも減って、幸福度の向上につながると考えられるためです(※5)

これは言い方を変えれば、「妻が夫を尻に敷いている家庭」だと離婚しにくいということになるのではないでしょうか。

「妻が夫を尻に敷いている家庭」では妻が主導権を握っているため、妻が心地よくすごすことができるようになります。この結果、妻の幸福度が上昇し、離婚へのインセンティブも低下するというわけです。

「妻の尻に敷かれる夫」というのは一見するとポジティブなイメージをもたれない場合もありますが、夫婦間の幸福度格差のメカニズムを考えると、結婚生活を円滑に進めていくうえで合理的な方法になっている可能性があります。

日本の家庭のうち、夫が妻の尻に敷かれている割合がどの程度なのかはわかりませんが、意外と少なくないような気がします(個人的な感想です)。

そのような家庭における夫は、合理的、もしくは動物的な直感で、結婚生活を長続きさせる方法を理解しているのかもしれません。

(※5)西村和雄・八木匡(2020)「幸福感と自己決定―日本における実証研究(改訂版)」RIETI Discussion Paper Series 18-J-026では、進学や就職といった重要な場面において、自分で進路を決められるような自由度が高いほど、幸福度が高まることを指摘しています。このため、夫婦関係においても自分の意思が反映されやすいと幸福度が高まる可能性があると考えられます。

佐藤 一磨(さとう・かずま)
拓殖大学政経学部教授

1982年生まれ。慶応義塾大学商学部、同大学院商学研究科博士課程単位取得退学。博士(商学)。専門は労働経済学・家族の経済学。近年の主な研究成果として、(1)Relationship between marital status and body mass index in Japan. Rev Econ Household (2020). (2)Unhappy and Happy Obesity: A Comparative Study on the United States and China. J Happiness Stud 22, 1259–1285 (2021)、(3)Does marriage improve subjective health in Japan?. JER 71, 247–286 (2020)がある。