不要なものには一円たりとも使わない

また、節約というのは自分が欲しいものややりたいことでも我慢するというニュアンスがありますが、彼らはそういうことはやっていません。節約ではなく、あくまで意味のない無駄な支出かどうかを自分で判断して無駄なものへの支出をやめているのです。つまり自分にとって価値のあるものにはお金を惜しまないものの、不要と感じるものには一円たりとも支出をしないということです。

その結果として“何となく消費”はやっていないということなのです。“なんとなく消費”とは会社の帰りに必ずコンビニに寄って何か買って帰るとか、言われるままに深く考えずに入って保険料を払い続けている保険とか、最初は良いと思ったけどあとは全く使っていないサブスクリプションのサービスとか、いわゆるそういったものを厳しくチェックして無駄な支出である“なんとなく消費”を無くしているのです。このようにして、必ずしも節約をしているわけではなく「自分なりの価値基準を持ってお金を使っている」ということなのです。そして支出をコントロールすることでできたその資金を投資なり貯蓄なりに回しているということです。

20年間で5000万円の積立投資

昨今、投資信託の積立投資で億り人になったという人も見かけますが、忘れてはいけない大事なことは投入するお金の多寡です。実際にこの20年間で国際分散投資をしながら積み立ててきたことで1億円を達成したという人の例を見てみますと、20年間でコツコツと積み立てた金額の累計が約5000万円となっており、それが20年間の値上がりによって1億円を超えてきています。ということは平均すると年間250万円ぐらい積み立てをしてきたことになります。月額になおすと20万円ちょっとです。これはそれほど簡単にできる金額ではありません。

大江英樹『となりの億り人』(朝日新書)
大江英樹『となりの億り人』(朝日新書)

しかしながら私が本の中でインタビューした人たちもその多くはやはりそれぐらいの金額を実際に積み立てに回しているのです。彼らが一様に言うのは「その積立額の半分ぐらいは、無駄な支出を見直すことで実行が可能だ」ということです。つまり、上手に運用して儲けることよりも支出をコントロールして貯蓄や投資に投下する金額を増やしてきたという、ごく当たり前のことをしてきたにすぎないのです。

結局、メディアでよく取り上げられる「短期間で億り人になった」というエピソードは単にたまたま起きたことにすぎず、再現性はありません。自分なりの価値基準を持ってお金を使い、貯蓄や投資を地道に積み重ねていくことをなるべく早い時期から実践していくことが億り人への道と言っていいでしょう。

大江 英樹(おおえ・ひでき)
経済コラムニスト

大手証券会社に定年まで勤務した後、2012年に独立し、オフィス・リベルタスを設立し、代表に。資産運用やライフプランニング、行動経済学などに関する講演・研修・執筆活動などを行っている。近著に『定年前、しなくていい5つのこと』(光文社新書)など。