コロナ禍の打撃は中小企業が特に深刻

コロナ禍については、先に雇用調整助成金について言いたいことがあります。上場企業では雇調金の受給額が100億円とか200億円という金額が報じられましたが、私の周りでは雇調金の申請ができていない中小企業が少なくありません。

申請には大量の書類が必要となり、従業員1人がかかりきりになるほど手間がかかるのですが、中小企業ではそんな人員の余裕はないのです。

コロナ禍の影響ですが、私は先日、顧客企業の従業員の賃金明細を集め、2019年から2020年にかけて給料がどの程度減ったかを調べました。対象は、愛知県に本社のある従業員300人以下の中小企業で188社あり、1万3892人分のデータが集まりました。留意してほしいのは、愛知県は自動車産業にかかわる企業が多く、調査対象である顧客企業の75%は製造業と卸売業であることです。そして自動車産業はコロナ禍の影響が比較的軽微でした。調査対象にはコロナ禍の影響が甚大だった観光業とか飲食業は1件も入っていません。

それでも年収が60万円以上減少した人が13.8%、10万円から60万円まで減少した人が27.9%を占め、40%以上の人の年収が下がっていました。また、賞与が10万円以上減少した人が31.1%、3万円から10万円減少した人が11.9%で、賞与の減った人は半数近くに上ります。印象としては、残業代と賞与がガクンと減りました。

コロナ禍の影響が比較的軽微だった業種を中心とした調査でこれだけ減っているため、観光業、飲食業、またはアパレル業などコロナ禍の影響が大きかった業種は、おそらく深刻でしょう。地方格差もより開くかもしれません。しかも、私の調査は2020年にも在籍していた従業員が対象であり、その間に失業した人は含まれていません。私の調査でさえ、対象者は2019年の1万4723人から800人以上減っているので、失業者の問題も深刻だと思います。

北見 昌朗(きたみ・まさお)
北見式賃金研究所所長

1959年生まれ、名古屋市出身。愛知大卒業後、中部経済新聞社に入社、12年間勤務した後に独立して社労士となり、北見式賃金研究所所長。著書に『製造業崩壊 苦悩する工場とワーキングプア』(東洋経済新報社)、『消えた年収』(文藝春秋)、シリーズとして『愛知千年企業』(中日新聞社)他。